筋肉を、読もう!書店員が厳選・カラダにまつわる12冊の名著。
トレーニング教本から身体論、小説まで。出版業界における「ジャンル・筋トレ」は活況で、今や書店を覗けば専用の書棚に出合うことも珍しくはない。今回は、そんな筋肉を巡る多様な書籍を、4人の書店員がレコメンド。全12冊の「読む筋肉」をお見逃しなく。
edit: Tamio Ogasawara text: Ryota Mukai photo: Go Itami
『Tarzan』No.933 on sale September 10, 2026.

モチベーションが上がる「使い勝手のいい」3冊。
教えてくれた人
高橋豪太(青山ブックセンター本店)/7年ほど勤めた東京・千駄木〈往来堂書店〉をはじめとする新刊書店での勤務を経て、昨年から現職。健康、料理、民芸などの本を扱う「ライフスタイル」棚を担当。

大谷翔平をはじめとするアスリートブックや、ランニングなどのトレーニング教本の並びに「筋トレ」のインデックスを持つ〈青山ブックセンター本店〉。この棚で、今最も手に取られている本が『筋肉が全て』だ。「題名と表紙のインパクトがとにかく強い」と、セレクターの高橋豪太さん。

『筋肉が全て』今一番売れてます!
「栄養科学や老年医学を専門にする著者が、筋肉がいかにカラダにとって重要かを教えてくれる本。免疫を強くしたり、血糖値を下げたり、果てはメンタルにもいい影響を与えてくれ、“筋トレしよう”と思わせてくれます。必ずしも通読する必要はなく、事典のように気になるところだけ拾い読みしていくこともできる、使い勝手のいい一冊」
『筋肉が全て』ガブリエル・ライオン/ダイヤモンド社

健康になにより重要なのは筋肉である。この理由を最新の研究成果とともに紹介。付録に食事プラン、レシピ、トレーニング方法も。御立英史訳。2,420円。
同じく使い勝手のいい一冊が、レシピ本『体を強くする豆腐料理』。180度以上開くことができて、手を離しても閉じないコデックス装だから、料理をしながらでも閲覧しやすい。
「筋肉といえば、タンパク質。タンパク質といえば豆腐。豆腐レシピだけを集めた一冊です。『第四章 朝ごはん』で紹介されている『朝の豆腐どんぶり』は、のっけるだけのレシピで、これまた使い勝手抜群です」
『体を強くする豆腐料理』長尾明子/すみれ書房

タンパク質の塊・豆腐のレシピを約100種収録。なかには油揚げ、厚揚げ、豆乳を生かしたものも。第二章は「やせる・鍛える」の筋肉食本。1,870円。
『我が友、スミス』は芥川賞候補作にもなった筋トレ小説。2021年に発表されて以来、高橋さんは3度読み直してきたという。その魅力は?
「ひと言では難しいですが……(笑)。筋トレは自分自身と向き合うもの、という側面があると思うんです。でも、この物語では社会との繫がりが描かれている。主人公が通うジムには、当然いろんな人がいて、マシンの貸し借りなどを通して関係ができていくんです。また、主人公が、女性であるがゆえに向けられる目がある。いわば社会の目ですよね。そうした状況を淡々と描いていきます。筋トレをしている人にはもちろん、そうでない人も楽しめるからこそ、広く読まれていると思います」
『我が友、スミス』石田夏穂/集英社文庫

筋トレに励む会社員・U野が、ボディビル大会を目指す。題名の「スミス」は、バーベルがレールに固定された、定番の筋トレ器具スミスマシンのこと。572円。
筋肉を見てカラダを見ず、になっていまいか?
教えてくれた人
熊谷充紘(twililight)/〈ignition gallery〉などを経て、2022年に書店をオープン。高校、大学の陸上部で1500mや駅伝に取り組む。速く、長く、走れるよう、現在も週1でジムに通う。
レベッカ・ブラウンやバリー・ユアグローなどアメリカ文学の刊行も手がける〈トワイライライト〉。文学の印象が強い書店だが、その一角には整体や老い、ケアなどを軸にしたカラダにまつわる本の島がある。

「僕自身、走るためのカラダ作りとして筋トレをしているのですが、今回選書しながら、あらためて“カラダ”のことをよく考えました」と、店主・熊谷充紘さん。木を見て森を見ず、ならぬ、筋肉を見てカラダを見ず、状態になっていないだろうか?

筋トレする人こそ筋肉本を読むべし!
「『食べる本』は素朴な発見から始まります。それは、これまで自分のカラダを適当に扱ってきたということであり、大袈裟に言えば、自分にカラダがあるということに気づくことです。そのうえで、健康で長生きをするために、筋トレをはじめとする適度な運動と食生活の改善をスタートします。一方、『体の知性を取り戻す』は、著者が幼少期に抱いたある疑問が出発点。それは、小さく前にならえが理解できなかったこと。あれはなんだったのか? という振る舞いのルールや規律をほぐしつつ、武道をベースにカラダ本来の身体性を探っていきます。カラダを部位の集合として考える西洋的な発想ではなく、ひとつの全体として捉える東洋的な考え方が面白い。筋トレもまた、部分だけでなくカラダ全体という視点が欠かせませんから」
カラダを見ず、ではどうなるか? そんなシニカルな目線で描かれた物語が『冷ややかな悪魔』だ。
「主人公の女性は、とある事情から、体脂肪率を下げるためだけにジムに通い始めます。体脂肪率を下げること以外にはなんにも興味がないんです。筋肉をつけることもボディメイクも、トレーナーとのちょっとした雑談さえどうでもいい。みるみる体脂肪率が下がっていく一方、他の煩わしいことの一切をポジティブに変えてくれるある魔法に取り憑かれてしまい、痛い目を見ることになる。ジムに通う人にとっては反面教師として楽しめる一冊です」
『冷ややかな悪魔』石田夏穂/U-NEXT

高い体脂肪率を理由に大好きな海外出張を禁じられた有田ユカリがジム通いを始める。うんざりする状況を一変させる、彼女が見つけたあるものとは? 990円。
極限状態で試される、カラダとメンタル。
教えてくれた人
荻田泰永(冒険研究所書店)/北極行約20回を数える、日本唯一の北極冒険家。2017年に「植村直己冒険賞」を受賞。21年に書店をオープン。2026年2月、桜木町に新たなイベントスペース〈ホーン〉をオープン。

〈冒険研究所書店〉は、その名のとおり、冒険にまつわる本をメインに揃える書店。というとニッチでトンガった本棚が想像されるが、さにあらず。極地はもちろん、海や山に動物、食から哲学まで、この世界がすべて収まっているかのような空間だ。営むのは、北極を歩き続けてきた冒険家・荻田泰永さん。『極夜行』などで知られる探検家・角幡唯介さんとも、かつて北極を歩いたという。

北極を歩くとグッと痩せますよ〜。
「角幡さんが新たに取り組んでいるのが犬ぞり。そのきっかけを書いたのが『狩りと漂泊』です。そもそも、北極を歩き続けるのは長くて50日ほどが限界なんです。その点、犬ぞりを使えば早く遠くに移動できるし、そのおかげで狩猟の成功率も上がる。50日の限界を突破できる可能性が高いんですね。このようにカラダを拡張させることで世界との関係性を作り変えることは、トレーニングによって何か新しいことができるようになるのと同じこと。状況こそ違っていても、似たマインドを感じられるはずです」
『狩りと漂泊』角幡唯介/集英社

植村直己に星野道夫、数々の冒険家が亡くなったのは43歳の時。その歳を迎える著者が目的のない漂泊の旅を始める。「裸の大地」シリーズ第1弾。1,980円。
逞しいカラダつきの荻田さんだが、なんと筋トレはしていないという。
「当然、するに越したことはないですけどね(笑)。とはいえ、こと極地に関して言えば、そこに立ってみることがなにより重要です。『極地探検で立証される 人体の限界』は筋肉の限界を教えてくれる本と言っていいでしょう。マイナス50度の世界では、少しでも気を抜くと凍傷になる。そのうえ、逃げ出したくなるほど恐ろしい場所でもあります。まとわりつく冷気がカラダをギュッと絞ってくるような感覚があるんです。だからこそ、経験や確かな技術、頼れる道具が欠かせません。そうして経験が身を助けるのは、経験を脳が認識しているからではなく、まずカラダが反応するからだと考えられています。この“ソマティック・マーカー仮説”を詳説するのが『デカルトの誤り』。デカルト的心身二元論とは異なる、カラダとメンタルの繫がりが見えてきます」
スタイルを知り、なりたい筋肉を見つける。
教えてくれた人
藤澤友哉(代官山 蔦屋書店)/コンシェルジュ4年目。店頭では、アスリートブックやトレーニング本、健康書などを扱う「スポーツ」棚を担当。筋トレ歴半年。自重トレーニングに励む。
あの〈TSUTAYA〉が手がけるジムがある。その名も〈TSUTAYA Conditioning〉は、鍛えるというよりメンテナンスをする場所であり、ヘビーなダンベルや動作音が気になりがちなランニングマシンはない。〈TSUTAYA〉ならではのブックラウンジを併設する、静かでリラックスできるジムだ。

その棚にはトレーニングや食、暮らしに関わるタイトルが並ぶのだが、セレクトしているのは、〈代官山 蔦屋書店〉のブックコンシェルジュ。その一人が藤澤友哉さんだ。ひと口に筋肉と言っても、求める形はそれぞれ。スタイルサンプルとして楽しめる本を挙げてくれた。

『プリトレ』、効果てきめんです!
「『筋肉と脂肪 身体の声をきく』は、アスリートをはじめとするカラダ作りのプロフェッショナルたちに迫るルポ。プロレスラー、力士、野球選手などが、それぞれに必要なカラダをいかに作り出しているのかが垣間見える一冊です。筋トレはもちろん、食事がいかに重要かがよくわかります。『となりの筋トレ』は、町のジムに通う日々について、小説家が綴るエッセイ。いつかマグロを釣り上げたいという若者をはじめとするジム仲間との交流や、社交辞令ならぬ『社交“筋”辞令』と呼ぶ筋トレ好き同士のあるあるなコミュニケーションなど、ジムユーザーならではのコミカルなエピソードがいちいち面白い。ジムに通ってみたいなと感じられるはずです」
3冊目は『プリズナートレーニング』。もちろん、アメリカの囚人たちをサンプルにしようというわけではない。
「元囚人によるトレーニング本。刑務所でやっていたくらいなので、物を使うとしてもせいぜい椅子とボールくらい。自宅でも真似ができるものばかりです。腕立て伏せなど6つのトレーニングがそれぞれ10種載っていて、さらにそのひとつひとつに3つの難易度が設定されています。初歩からゲーム感覚で攻略していくこともできるし、すでに筋トレしている人にとっては腕試しにもなる一冊です」
『プリズナートレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ』ポール・ウェイド/CCCメディアハウス

「ヘルホール」の別名を持つマリオン刑務所でサバイブすべく自重トレーニングを極めた著者の筋トレ教本。表紙は『刃牙』の板垣恵介。山田雅久訳。2,200円。








