12時間デスクワークで痛むカラダ。高橋源一郎さんを救うストレッチ。

座る、読む、書く。その繰り返しが知らず知らずのうちに身体へ負担を蓄積させる。1日12時間以上デスクに向かう高橋源一郎さんが抱える、腰、首、膝への不安。痛みの原因をカラダの連動から探り、日常の隙間時間でできるストレッチで整えていく。

text & edit: Taichi Abe photo: Kenya Abe exercise supervisor: Takahiro Kanbe

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高橋源一郎が書斎で本を読んでいるところ
Profile

高橋源一郎(たかはし・げんいちろう)/1951年生まれ。1981年『さようなら、ギャングたち』で作家デビュー。今年2月に長編小説『DJヒロヒト』(新潮社)を、5月にはダイエット経験をまとめたおよそ600ページの『食べる本 読むダイエット』(河出新書)を刊行。

神戸貴宏(かんべ・たかひろ)/パーソナルトレーナー。〈Body Design Studio ASK〉代表。トレーニングと食事両面から丁寧なダイエット指導を行う。さまざまなメディアで著名人のボディメイクやストレッチ、ポージング指導なども。

1日12時間デスクワークを続けるカラダに手軽なストレッチを。

高橋さんの仕事場

高橋さんの仕事場には、およそ5000冊の書籍が収められている。執筆中の作品ごとに、本の収納位置を移動。「最近は良いヘッドホンとアンプを買って、“小さなコンサートホール”を作った。なおさら、椅子に座りっぱなしです(笑)」。

2020年から始まった、作家のダイエットライフ。

「ジーンズが穿けなくなっちゃったんですよ。その頃、ぼくと息子たちは同じような体型で、洋服をシェアしていました。ある日『ねぇ、このジーンズ縮んだ?』なんて訊いたら『そんなことないよ』って返事が返ってきて」

と語るのは作家の高橋源一郎さん。そこから彼の減量はスタートする。その様子は新著『食べる本 読むダイエット』に詳しいが、食事の内容を考えつつ1日1〜2食にし、スクワットを始め、69kgあった体重はベストウェイトの63kgに。食事の管理と適度な運動はダイエットの王道だが、高橋さんはそこに“読書”をプラスした。

「ぼくにとってダイエットは実験。知識がなかったから、まずは調べることを始めました。エクササイズや食事の本からスタートして、カラダとは、生きるとは、みたいなテーマの本まで行き着いた。数百冊は読んだと思いますよ」

原稿の執筆はもちろん、その膨大な量の読書もデスクで行う。一日のほとんどを、椅子に座って机の前で過ごすことになる。

「カラダが丈夫にできているのか椅子がいいのか(笑)、1日に12時間以上は座っているのに、眼精疲労や肩こりに悩んだことはありません。でも実は、腰と首、それから膝には不安があるんです」

原稿執筆で使うキーボード。

原稿執筆で使うキーボード。「ぼくは字が下手だからワープロをいち早く取り入れました」と高橋さん。

新刊『食べる本 読むダイエット』(河出新書)

新刊『食べる本 読むダイエット』(河出新書)には、コロナ禍で始まった高橋さんのダイエットの取り組みとともに、関連して読んだ“参考文献”についても記されている。

高橋源一郎さんの悩み事
  • 腰痛持ちにやさしいストレッチを。
  • ぎっくり首の恐怖から逃れたい。
  • 1万2000歩で発症する膝痛を軽減したい。

転ばぬ先の杖としてのストレッチを学ぶ。

作家として活動する前、肉体労働をしていた高橋さんは、ある日の仕事中にぎっくり腰を患った。

「クセになっているのかもしれません。それ以来、何度か繰り返していて。そして、ぎっくり腰のせいなのか、疲れてくると右腰が痛くなるような気がします」

“ぎっくり”は、高橋さんの腰のみならず、首にも襲いかかる。

「寝ていたら、ふと目が覚めたんです。そして、首を少し動かすと激痛が。首が痛いとカラダ全体が動かせなくなるもので、布団から起き上がることすらできない。そのときは、たまたま妻も家に不在でどうすることもできない状態でした。しばらくしたら、トイレはどうしよう、もしかしたらこのまま朽ちていくのかもしれない……なんて不安が頭をもたげるようになりました(笑)。結局、首は固定したまま、両手で敷布団を握りしめて、腕力と腹筋で(笑)起き上がったんです。ぎっくり首の痛みがこの世で一番辛いと思う。再発させたくないので、ケアしていけたらいいですね」

転ばぬ先の杖としてのストレッチを知りたい高橋さんには、もうひとつ「膝」への不安もある。

「ぼくはいつも仕事場にあるベッドで睡眠をとります。毎朝5時45分に起きて、自宅には歩いて帰る。歩く時間は、だいたい25分かな。帰宅してからは50分間の犬の散歩に出かけます。戻ってシャワーを浴び終える頃に子供が登校する時間になるのですが、家が駅まで遠いこともあって、タクシーで送って行きます。それがぼくの毎朝のルーティンで、歩数を測ってみるとだいたい7500歩になります。タクシーに乗らないと1万歩。そこまではいいんです。でもね、さらに歩いて、1万2000歩を超えると途端に膝が痛くなる。痛むのはいつも右膝なんですよね」

高橋源一郎が外を見て座っている様子

「基本的には体調もいいし、毎日が楽しい。一日が48時間あればいいと本気で思ってますよ。24時間をインプットに使って、18時間執筆するとか」と笑う。

今回の講師であるトレーナーの神戸貴宏さんは、高橋さんの悩みが右半身に偏っていることに注目してストレッチを提案。深呼吸をしながら、高橋さんは右半身をゆっくりと伸ばしていく。

「これからは、生活にストレッチを加えてみるのもいいかもしれませんね。あとぼくは、もうひと息寝たいのに目が覚めちゃう。寝酒をしないと眠れないし。ぐっすり眠れるストレッチってありませんかね?(笑)」と冗談まじりに聞く高橋さんに神戸さんは答える。

「ストレッチは副交感神経を優位にするから安眠にも効果的です。お風呂上がりやお酒を飲んだ後にストレッチをすると筋肉が緩みやすいから、寝る前に実践してみるのもおすすめですよ」

それを聞いて表情がほころぶ高橋さん。75歳を迎えた作家の生活はさらに健康的になりそうだ。

「基本的には体調もいいし、毎日が楽しい。一日が48時間あればいいと本気で思ってますよ。24時間をインプットに使って、18時間執筆するとか」と笑う。

高橋さんの悩みに応える2つのストレッチ。

ストレッチ1. 股関節と大臀筋はすべての要。ぎっくり腰と膝痛のリスクを軽減。

「高橋さんのお仕事の様子を見ていると、右利きということもありますが、PCのマウスを使ったり、右手を使う動作が多い印象です。もちろん、腰や膝を個別でストレッチしていく方法もありますが、すべての筋肉は連動しています。“右半身を伸ばしていく”という意識で取り組んでみるのがいいかと思います。特に大きな筋肉であるお尻の大臀筋と股関節をほぐします」(神戸さん)。

まずは、テーブルを使ったストレッチから。

高橋源一郎さんがテーブルに腰をかけてストレッチをしている様子

高橋源一郎さんがテーブルに腰をかけてストレッチをしている様子

高橋源一郎さんがテーブルに腰をかけてストレッチをしている様子

腰くらいの高さの安定したテーブルを使う。右脚を折り曲げたままテーブルに乗せる。このとき、右の股関節を開く意識で。テーブルにお尻をつけたまま、大臀筋を伸ばすイメージで上半身をゆっくりと前に倒していく。最終的には、写真の高橋さんのように両肘がテーブルにつくまでを目指したい。

ストレッチ2. 恐ろしいぎっくり首への備えは、PCで疲労する前腕を伸ばすこと。

「原稿執筆にワープロを導入した作家としては安部公房、小林恭二の次ぐらいだと思います。1983年からタイピングで作品を書いています」と語る高橋さん。1日12時間以上もPCでタイピングを続ける。

その様子を見て「無意識のうちに前腕に疲労が溜まります。前腕屈曲群をストレッチすることで、連動している首の筋肉もリラックスさせましょう」と神戸さんが提案したのは、再びテーブルを使ったお手軽なストレッチ。隙間時間に試したい。

高橋源一郎さんがテーブルに手をかけてストレッチしている様子

自身でトライしてみると無意識に右手の指が伸びていなかった高橋さん。右手を酷使している証拠。指は伸ばし切ること。

指をしっかりと開いたまま、指先を自分の方向に向け、両方の手のひらをテーブルにつける。初めは無理せずに、上半身が前傾してもOK。そこからゆっくりと上半身を起こしていく。痛いときは、前傾方向に戻しながら負荷を調節する。前腕がしっかりと伸びていることを意識しながら30秒ほどストレッチ。