トップクリエイターが実践する、ひみつの疲労回復術。

最高のパフォーマンスは、追い込むだけでは生まれない。仮眠で創作脳をリセットする音楽家と、香りで感覚を研ぎ澄ます建築家。第一線を走り続ける二人が実践する、集中力と創造力を支える“リカバリー習慣”を聞いた。

text: Mako Matsuoka photo: Hiromichi Uchida

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音楽家・江﨑文武さんと建築家・日高海渡さんの疲労回復に必要なこと

音楽家・江﨑文武|30分の仮眠で、創作脳を再起動。

Profile

江﨑文武(えざき・あやたけ)/音楽家。1992年生まれ。King Gnu、米津玄師、藤井風らのライブサポートも行う。全国を巡る『江﨑文武 2026 JAPAN TOUR』を開催中。

音楽家・江﨑文武さんがソファに寝ている様子

ピアノの背後に置いたソファベッドで仮眠し、エネルギーをチャージ。

「長く走り続けるために、休息の時間も大事にしています。50年後も作曲と演奏をしていたいから」

ソウルバンド〈WONK〉のキーボーディストで、実写映画『秒速5センチメートル』などの劇伴も手がける江﨑文武さん。30歳を迎えた頃から生活を朝型に切り替えた。

午前中はメール返信などの事務作業をし、午後から日没までは音を紡ぐ。途中でパンクしそうになったら、ソファベッドに横たわってひと眠りするという。

「とにかく目を閉じて、思考を遮断します。アラームはかけませんが、30分くらいで自然と意識が戻る。そこから鍵盤に向かうと、不思議とメロディーが浮かぶことが多くて。効率もいいんですよ」

サイクルを整えて、およそ2年。周囲の反応にも変化があった。

「曲調が明るくなったようです(笑)。尊敬するエンニオ・モリコーネのような明るい音楽を生みたくて、試行錯誤していました。彼は5時に起きて、21時には就寝していたそう。毎日同じ時間帯に曲を作って、疲れたら昼寝をする。この習慣が肝だと思っています」

ピアノの前に座り楽譜を読む姿

〈ヤマハ〉が〈日本楽器〉を名乗っていた1960年代製のピアノを愛用。

お茶が入っている陶器

楽曲制作の合間の息抜きドリンクは、もっぱらお茶。朝一番に淹れるのもルーティンのひとつ。この日は黒豆茶を楽しんでいた。

建築家・日高海渡|香りを感じて、“輪郭”を取り戻す。

Profile

日高海渡(ひだか・かいと)/1988年生まれ。東京工業大学大学院建築学専攻修了。2019年に〈swarm〉を創業。〈大橋会館〉の空間ディレクションも担当。

建築家・日高海渡さんがお茶を飲んでいる様子

ジャスミンと月桃の華やかな香りが広がるお茶を片手に、くつろぐ日高海渡さん。空間デザインを手掛けた〈大多喜有用植物苑〉で話を聞いた。「高床リビング」で靴を脱ぎ、草木を眺める。

「自宅で作業場と住居エリアを分ける工夫として、前者では必ずスリッパを履いていました。この小道具によって、同じスペースでも気分は“オン”になる。設計時には平面図からは伝わらない抑揚も重視しています。カラダが空間をどう感じるかが大事なんですよ」

この発想の背景にあるのが、哲学者・鷲田清一によるファッション論『ちぐはぐな身体』だ。

「人は自分の“輪郭”を認識すると安心するそうです。例えば太陽の光を浴び続けると、汗ばんできますよね。著者によると、そうした身体の変化こそが“輪郭”を取り戻すことだそうです。僕にとってはその反応が、感覚を整える軸にもなっています」

一日の締めに精油を取り入れ、気持ちを落ち着かせるという。

「香りには一瞬で場面を切り替える力があります。ただ、それをリビングやダイニングの主役にはしたくない。お手洗いという密室で漂わせ、嗅覚を澄ます。そうして、昼間にぼやけた“輪郭”をくっきりさせているんです」

愛用している精油スプレー

常備する2種の精油スプレー。左から、柑橘の爽やかさと森の深みを楽しめる〈NIOCAN〉と、植物苑のオリジナルプロダクト〈GREEN〉。来客前にもひと吹きする。

お茶を注ぐ様子

併設のカフェで扱うドリンクは鑑賞エリアでも飲める。