海の幸あり、絶景あり、ご褒美多め。西伊豆で“ゆるトレイル”を満喫。
西伊豆の海岸線を、モデル・大石学さんとのんびりとした旅。絶景、自然の豊かさや新鮮な海鮮とストイック派も笑顔になる“ゆる歩き”、もとい“ゆるトレイル”の魅力を満喫!
取材・文/櫻井 卓 撮影/表 萌々花 モデル/大石 学
初出『Tarzan』No.912・2025年10月9日発売

海岸沿いのトレイルでご褒美多めのユル歩き。
登山メーカーの広告にも登場している人気モデルである大石学さんとともに向かったのは、西伊豆。観光客で賑わう堂ヶ島のバス停に降りると、潮の香りが漂う。今回のコースは、堂ヶ島から海岸線を舐めるように北上していく。西伊豆の名所もたっぷり詰まった、のんびりとした歩き旅だ。

かつて手掘りされたトンネルの先には、田子の集落。防空壕跡や造船所、雰囲気ある漁港など、通常の山歩きにはないロケーションがいたるところにあるのもこのコースの醍醐味。
実は、この歩き旅に学さんを誘ったのは、彼がかなりストイックな登山をしているから。最近はトレイルランにもハマっていてそのドM、もといストイックっぷりに拍車がかかっている。そんな学さんに、ユルめ&ご褒美多めの登山の素晴らしさを伝えたかったのだ。

スタート地点となる堂ヶ島。天窓洞と呼ばれる場所は白い凝灰岩からできていて、その内部には多数の空洞部分がある。遊覧船で洞窟を巡るツアーも人気だ
堂ヶ島の真っ白な岩場から出発してしばらく歩くと、瀬浜海岸に出る。ここは干潮時には道が現れ、隣の三四郎島まで歩いて渡れるのだが、今回は時間が合わず。波の下に道がうっすら見えるだけだ。
「以前訪れたモン・サン・ミシェル的な感じですね。干潮時間を調べて、もう一回来てみたいです」

スタート地点まではバス移動できるのでアクセスも良好。この日はゴール地点の黄金崎にクルマを駐車してから、バスでスタート地点の堂ヶ島へ。
生活感のある集落を抜け、次の目的地まで。
次の目的地である浮島海岸までは集落を歩いて行く。生活を垣間見ながら歩けるのも山深いエリアでは味わえない魅力だ。
「このユルい生活感、昔旅した東南アジアの村を思い出しますね」
学さんは、世界一周した経験を持つ旅人でもあるから、次々とこうした喩えが出てくる。

浮島海岸を過ぎたあたりからはアップダウンが続く山道になる。高台から見下ろす断崖絶壁は圧巻。
浮島海岸から先はアップダウンが続くが、5分登って5分下る程度。ところどころ、海を見下ろせる場所からはSUPやカヤックで楽しむ人が見える。
「海にドボンできる格好で来ればよかった」
爽やかな汗を額に光らせた学さんが、羨望の眼差しを送る。たしかに、シュノーケリングなどを絡めても楽しそうだ。樹林帯の半島をグルリと回り込んでいくと、木々の間に集落が見えてきた。
「海岸沿いだというからずっと平坦かと思っていましたが、アップダウンが適度にあるから、ちゃんと山歩きをしている感じもあって楽しいですね。集落が見えてきたときの安堵感はトレイルランのエイドにも通じるなぁ」
海鮮丼でランチ休憩。ストイックな山歩きにはない魅力!
時刻はちょうどお昼時。我らがエイドステーションの田子集落で立ち寄った定食屋が大当たり。途中の自販機でキンキンの炭酸を補給できたり、定食屋でマグロ丼が食べられたり、ストイック系山歩きにはない、ご褒美多めトレイル。学さんの表情も、だいぶユルくなってきた。いいぞいいぞ。

田子集落はスーパーもあるので絶好の補給ポイント。
断崖、ジャングル、青い海、くるくる変わるロケーション。
そこから先は、ジャングルエリアに突入。足元にはシダ植物が繁茂している。振り返ると、切り立った断崖絶壁と青い海。

今回歩いたのは西伊豆歩道のうちの堂ヶ島コース、燈明ヶ崎コース、今山コースを繫いだルート。今山コースはそれまでの海岸感とはうってかわってジャングルゾーン。
「ここ、めちゃくちゃハワイ島ですね。島旅感覚もあってバリエーション豊富で飽きません」
たしかに学さんが言うとおり、世界が凝縮されたような、変化に富んだエリアだ。同時にコンパクトにまとまった、日本ならではの自然の豊かさも感じる。
学さんが嬉しそうにシャッターを切る。いつものトレイルランでは持っていかない一眼レフのフィルムカメラだ。
2時間ほどのジャングル歩きを終え、安良里集落へと下りてきた。ここからゴールの黄金崎までは約1kmの長いトンネルだ。ちょっと憂鬱に思っていたら、「ちょうどバス停もあるし、そのパートはパスしてもいいんじゃないですか?」と、すっかりユル仕上げになった学さんが言う。もちろん即答で「イエス」だ。

安良里からはバスでゴールの黄金崎へスキップ。こんなおサボリも許されるユルさがうれしい。
締めは黄金崎の夕陽。白い岸壁が美しく輝きだす。西伊豆は夕陽の名所が多く、ここもそのひとつ。観光地としても人気で、夕暮れの時間帯には映えを狙ったカップルや若者たちが集まっている。通常の日帰り登山だったら夕方には下山するのが常識だけれど、この歩き旅なら夕方の時間までたっぷり満喫できる。しかもゴール地点のご褒美感が格別なのだ。ご褒美といえば、ほどよく疲れたカラダにビールが染み渡るに違いない。

今回のコースのゴール地点である黄金崎。奇岩百景にも選出された馬ロックに当たる夕陽は一見の価値あり。岩肌が白っぽいのは温泉成分によって岩が変質したからだという。
一瞬の光の変化を逃すまいとファインダーを覗き続けていた学さんが嬉しそうに振り返る。
「いい風が吹いてきましたね。せっかくだしこのへん走ってから帰りますか?」
この人、ほんとタフだわ。

歩き終わった後は黄金崎からすぐの宇久須キャンプ場でテント泊。シャワーもあるのでトレイルの汚れもスッキリ。
静岡県 西伊豆歩道

スタート地点の堂ヶ島までは、伊豆箱根鉄道の修善寺駅からバスで約70分、伊豆急下田駅から60分。ほとんどの道は歩きやすいが、最後の今山コースは本格的な山道なので、道迷いなどにも注意。暑い時期は水分も多めに持参すること。
























