果てしなきオリーブオイルの世界へ!マイベストな1本の見つけかた。

オリーブオイルをただの調味料と思うなかれ。香りも味わいもバラバラの個性派揃いだからこそ、選ぶ楽しさがある。その魅力や背景を知れば、いつもの料理が劇的に変わるはず!

編集・取材・文/川端浩湖 撮影/宇戸浩二 取材協力/山内仁義(MAMAS TABLE) 参考文献/『オリーブの歴史』(ファブリーツィア・ランツァ著、原書房刊)

初出『Tarzan』No.906・2025年7月3日発売

教えてくれた人

山内仁義(やまうち・まさよし)/オリーブオイル専門店〈MAMAS TABLE(ママズ テーブル)〉代表。店内には50種類以上の高品質オイルが並び、テイスティングも可能。@mamastable_oliveoil2006

約6000年前からその歴史は始まった。

オリーブは単なる実のなる木ではない。「ノアの箱舟」の物語によれば、大洪水の後、ノアが放した鳩がオリーブの枝をくちばしにくわえて戻り、地上に平穏が戻ったことを知らせたという。オリーブは古代から“平和の象徴”として特別な意味を持ってきたのだ。

オリーブの起源はとてつもなく古い。約6000年前、地中海東岸で栽培が始まった。その後、ギリシャ人、フェニキア人、ローマ人の手によって栽培技術が広まり、地中海沿岸に根を張っていく。

古代ローマではオリーブオイルは食用だけに留まらず、灯りをともす油、肌に塗る香油、薬や化粧品、工業用、宗教儀式などにも利用され、ローマ帝国の拡大を支える存在に。決して大げさな話じゃない。オリーブオイルは人類の歴史と深く結びついているのだ。

オリーブの品種は1000種超。風味の違いはまさに無限!

オリーブの産地は、地中海沿岸以外にもアメリカや南米、オセアニア、日本など、世界各地に広がっている。その種類はゆうに1000種以上だ。今、世界一の生産国はスペイン。なかでも代表格の「ピクアル種」は、スパイシーでフルーティ。ほんのり苦みがあり、ポリフェノールも豊富だ。

一方、オリーブの種類が断トツに多いのがイタリア。その一つである「コラティーナ種」は南部・プーリア地方で有名な品種で、濃厚で力強い香りと味が持ち味だ。

エキストラバージンオリーブオイルは、こうした個性的なオリーブの実を搾ったもの。だからこそ、土地、生産者、製法の全てが風味に表れる。数ある中からお気に入りの一本を見つけるのは、まるで冒険のよう。それを探すプロセスこそが、オイル選びの醍醐味だ。

オイル迷子は卒業! 推しオイルを見つけよう。

どんな料理に合わせるか? そこを決めれば選ぶべきオイルが見えてくる! 香りと味わいをイメージしながら、自分にフィットする一本を選び出そう。(価格は〈MAMAS TABLE〉にて店頭販売時のもの)。

味&香り強めのストロングタイプ。

クロニャーレ〈イタリア〉

クロニャーレ〈イタリア〉

スパイシーで、濃厚な風味が楽しめるストロングタイプ。500mL5,292円、トンマーゾ マシャントニオ。

ウルトラ プレミアム コラティナ〈オーストラリア〉

ウルトラ プレミアム コラティナ〈オーストラリア〉

コラティーナ種使用。特有のパンチのある苦みと辛みが刺激的。500mL5,616円、コブラム エステート。

味強めのまろやかタイプ。

ルグリオ D.O.P.〈イタリア〉

ルグリオ D.O.P.〈イタリア〉

プーリア産。しっかりとした強めの風味の中にどこかやさしさがある。250mL2,268円、ルグリオ。

LAS200ピクアル〈チリ〉

LAS200ピクアル〈チリ〉

南米チリの200のオリーブ栽培農家が一体となったブランド。500㎖3,996円、LAS200。

香り強めのフルーティタイプ。

チンクエコッリ〈イタリア〉

チンクエコッリ〈イタリア〉

力強さとフルーティさを持ち、料理の仕上げにベスト。500mL6,480円、チンクエコッリ。

RE モンテイブレイ〈イタリア〉

RE モンテイブレイ〈イタリア〉

青リンゴのようなフルーティな味わい。まろやかさがパンにも合う。500mL6,480円、サレミ。

味&香りやさしいマイルドタイプ。

カサ アルバート 有機〈スペイン〉

カサ アルバート 有機〈スペイン〉

フレッシュな青々しさがシンプルなサラダに合う。500mL3,240円、カサ・アルバート。

ウニオDOP〈スペイン〉

ウニオDOP〈スペイン〉

爽やかな香りとまろやかな味わいが素材の味を生かす。料理の仕上げに。250mL3,240円、ウニオ。

どんな料理にも対応するベースタイプ。

オリオ・デル・カルディナーレ〈イタリア〉

オリオ・デル・カルディナーレ〈イタリア〉

フルーティな香りと心地よい苦みのバランスが絶妙。500mL4,752円、ルイジ・テーガ。

ファヴォローリオ〈イタリア〉

ファヴォローリオ〈イタリア〉

フレッシュな葉野菜の風味。さまざまな食材に合う。500mL3,996円、プリムオーリオ。

モンシニョーレ〈イタリア〉

モンシニョーレ〈イタリア〉

スイートアーモンドのような香りとバランスの取れた芳醇な味わい。250mL2,970円、ビシェリア。

レ・テッレ・デル・カステッロ〈イタリア〉

レ・テッレ・デル・カステッロ〈イタリア〉

有機栽培オリーブ使用。香りはフレッシュで味わいは軽やか。250mL1,890円、フラントイオ・ラ・モラッツァ。

コルメラ〈スペイン〉

コルメラ〈スペイン〉

4品種のオリーブをブレンドしたバランスの良い味わいとフルーティな香り。250mL2,268円、アンフォラ。

ドメーヌ・ベルディ ブラン〈チュニジア〉

ドメーヌ・ベルディ ブラン〈チュニジア〉

100%手摘み。贅沢な果実味と品のある辛みが特徴。ほのかな苦みもある。250mL2,160円、ドメーヌ・ベルディ。

BOSCO エキストラバージンオリーブオイル〈イタリア製造〉

BOSCO エキストラバージンオリーブオイル〈イタリア製造〉

新鮮なオリーブのフレッシュで豊潤な味わいが特長。228g948円(編集部調べ)。WEBサイト

こんなオイルも!

オリーブオイルに香りや風味を移したフレーバーオイル。料理にひと振りすればたちまち贅沢な味わいに。

トリュフオイル

トリュフオイル

カーサ・リナルディ トリュフオイル〈イタリア〉トリュフを漬け込んで香りを移したオイル。濃厚な味わいが卵料理やパスタに抜群に合う。250mL3,576円、カーサ リナルディ。

レモンオイル

レモンオイル

カロリ レモン〈イタリア〉シチリアの無農薬レモンの果肉も皮も丸ごと全部オリーブと一緒に搾って作るレモンフレーバーオイル。豆腐や焼き魚に。100mL2,160円、カロリ。

オリーブオイル選びにまつわる11の疑問。

専門歴20年、オリーブオイルの達人・山内仁義さんが、本物を見極めるポイントから知らなきゃ損する保存術まで徹底解説!

選び方も使い方も、実は間違いだらけだった!? オリーブオイルの“正解”、今こそアップデートの時!

オリーブオイルの話

オリーブの木は雨が少なく晴天の多い土地で育つ。長寿の樹木として知られ、樹齢2000〜3000年以上とされるものもあり、古くから平和や繁栄の象徴とされてきた。

Q1.質の高いオリーブオイルの基準とは?

「最高品質と呼ばれるエキストラバージンオリーブオイルは、国際オリーブ評議会(IOC)の基準により、酸度0.8%以下であることが求められます」(山内さん)

ここでいう“酸度”とは、油に含まれる遊離脂肪酸の割合のこと。収穫から搾油までに時間をかけすぎたり、傷んだ実を使ったりすると、この酸度が高くなってしまう。つまり、酸度が低いほど、質が高いオイルというわけだ。

Q2.値段が高いオイルほど品質が良い?

「手間をかけて丁寧に作られたオイルや単一品種から搾ったオイルは、確かにそれなりの値段になります。しかし、値段=品質ではありません。なかにはブランド構築やマーケティングで高くなっているだけのものも」。

値段が高いオイルを使えば料理がおいしくなる、とは限らない。大事なのは料理や使い方に合った一本を選ぶことだ。

Q3.オイルの色と品質には関係がある?

ずばり、オイルの色は品質とは関係なし。

「搾った時のオリーブの熟成度やオイルを精製する際のフィルターの有無などによって色は変わりますが、品質とは無関係です」(山内さん)。

同じ畑で採れたオリーブの実でも、年によってオイルの色が違うことも。色の違いに惑わされず、自分の舌で確かめることがオイル選びの基本だ。

Q4.いいオイルほど辛みや苦みが少ないんじゃないの?

オリーブオイルの辛みや苦み、それ、実は“雑味”じゃない。正体は健康成分として注目されているポリフェノール。多ければ多いほど、辛みや苦みがガツンと強くなる。でも、強ければいいってもんじゃない。

「飲用ならマイルド、しっかり味の料理にはストロング。シーンに合わせて使い分けて」。

オリーブオイル選びは適材適所!

Q5.エキストラバージンオリーブオイルは加熱調理に使えないって本当?

エキストラバージンオリーブオイル=サラダ専用なんて思い込みは、今すぐ捨てよう。

「炒め物や揚げ物に使って全く問題ありません。パスタや炒め物はワンランク上の味になり、唐揚げに使うとカリッと香ばしく仕上がります。しかも高温で加熱しても酸化しにくいので、油を何度か使い回すことも可能です」。

Q6.ピュアオリーブオイルの“ピュア”って?

“ピュア”というからには、より純粋なのだろうと思われがちだが、実はちょっと違う。

「オリーブオイルにバージンオリーブオイルをブレンドして風味を調整したもの。オリーブ独特のクセは控えめなので、生食ではなく加熱調理向き」。

ちなみに、「ピュア」と呼ぶのは日本だけ。国際基準では「オリーブオイル」と表記されている。

Q7.個性的なオイルの数々。味の決め手は?

オリーブオイルの味は、農家のこだわりがダイレクトに出る。というのも、オリーブの栽培から搾油までを一貫して手がける農家が多いからだ。

「農園主はその年のオリーブの出来を見ながらブレンドの割合を決めます。まるで日本酒の杜氏のように、農園ごとの味に仕立てていくんです」。

同じ土地や品種でも、作り手が違えばまるで別物になる。生産者の想いも味の重要なファクターだ。

Q8.品質や特徴はラベルで判断できる?

オリーブオイルのラベルを見ても、分かるのはメーカー名や原産国くらい。正直、香りや味の違いまでは見えてこない。

「オーガニック認証があれば、一定の品質はクリアしている。でも、国によって味に明確な傾向があるわけじゃない。何より大事なのは、テイスティングです」。

つまり、本気で選びたいなら専門店に行こう。自分の舌で確かめるのが、運命の一本に出会う一番の近道だ。

Q9.理想の一本をゲット。寝かせた方がおいしくなる?

オリーブオイルはオリーブの実を搾った“生鮮品”。ウィスキーのように熟成で旨みが増すものではなく、時間とともに劣化していく。

「未開封であれば1〜2年はOKですが、開封したら新鮮な風味が楽しめるうちに使って。買いだめするよりこまめな購入がお薦め」。

もったいないからと戸棚にしまい込むのではなく、どんどん使うのが正解!

Q10.オイルはどう保管するのがベスト?

賞味期限を気にして鮮度のいいものを選んでも、保管方法を間違えれば一気に劣化が進む。

「高品質なオイルなら、開封後半年は新鮮な風味を楽しめます。ただし、使い終わったら蓋をきちんと閉め、流し台の下など一年中温度が安定していて直射日光が当たらない場所で保管しましょう。とはいえ、冷蔵庫に入れるのはNGです」。

もし油っぽい臭いや味がおかしいと感じたら、劣化の可能性大!

Q11.オリーブオイルを毎日摂っても問題ない?

オリーブオイルが長く愛されてきたのは、味だけじゃない。カラダにもいいからだ。

「オリーブオイルにはオレイン酸がたっぷり。全体の70%以上を占めています。エキストラバージンオリーブオイルを毎日大さじ1杯摂ることで、動脈硬化のリスクを下げるという報告も」。

味噌汁にひと垂らし、野菜ジュースに混ぜる、納豆や卵かけご飯にかけるなど、続けやすい摂り方を見つけよう。