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革靴は足にいいのか?
「はい。いいと思います」と即答してくれたのは、上級シューフィッターの資格を持つ、リーガルコーポレーションの田島智司さん。
「硬くて痛かったり、靴擦れしたりするのは、新しい靴の履き始めの場合が多いようです。本革は履くうちに足に馴染んでくれるので、本来は痛くなりにくいんですよ」
伸縮性、といっても履くたびに伸び縮みするのではなく、適度に柔らかく伸びてフィットする形に落ち着くのが革の特徴。サイズが合っていればストレスなく履ける。さらに特筆すべきは吸湿性だ。
「革の断面を見てみると、表面は硬く、中は繊維質が多層構造のようになっています。天然の素材なので非常に複雑で、人工的には再現することはできないその繊維構造が、吸湿の役割をしています。靴の中の汗や湿気を一時的に吸ってくれて、足の蒸れを軽減します。確かに通気性にこそ乏しいものの、しかし吸湿性という点ではほかの素材に負けません!」
田島さんが30年履いているコードバン(馬の臀部)の革靴。雨などを避け、手入れをしながら大事に履けばいつまでも美しい艶が。
世界最古の革靴はアルメニアで発見された。
原始的な靴は、食用に捕獲した動物の皮や毛皮で足を包んで保護したところから始まる。
「厳密にいうと、レザーではなくスキン。なめしていない皮の靴です。動物の皮はそのままだと腐りやすいので、これを加工して革にする技術が発達してきました」
現在、「世界最古の革靴」と見られているのが、2008年にアルメニアの洞窟で発見された靴。5500年前のものだが、驚くべきことには、牛の皮をなめした一枚革で作られている。加工する技術がすでにあったのだ。
なめしの技法では、魚や動物の油脂を塗って柔らかくする「油なめし」がもっとも古く、やがて「燻煙なめし」「植物タンニンなめし」といった方法が発明され、現在では約8割の革が、化学物質を使用した「クロムなめし」で製造されているそう。革靴の進化は、人類の歴史そのものだ。
フォーマル靴の最高峰は「オペラパンプス」という革靴である。
格式高い場に最も相応しいフォーマルな靴とは?
「それは、“オペラパンプス”です。たとえば結婚式の新郎、叙勲式の出席者、演奏会の指揮者など、最高位の礼装が求められる際の靴ですね。男性用ですがエナメルでリボンが付いているのが特徴的。ダンスや社交の場で女性のドレスと靴を靴墨で汚さないよう、エナメル素材になっているのです」
その次にフォーマル度が高いのは、「内羽根式ストレートチップ」の黒。多くの人はオペラパンプスを履く機会が滅多にないと思われるので、一般的にフォーマルな場面では、このタイプが最上位と覚えておくといい。
オペラパンプス
男性の礼装に合わせるドレスシューズで、紐や留め具のない独特のデザイン。日本ではあまり機会がないが、ヨーロッパでは、文字通りオペラ観劇や晩餐会といった場面で履くもの。31,900円、WEBサイト
内羽根式ストレートチップ
紳士靴の基本ともいえるフォーマルシューズ。もとは、爪先を形作る芯の跡が浮き出るのを隠すためにキャップを被せたのがデザインの由来といわれる。46,200円、WEBサイト
革靴には「内羽根式」と「外羽根式」がある。
甲のパーツに「羽根」と呼ばれる鳩目のパーツが潜り込んでいるタイプの紐靴が内羽根式で、甲の上に乗っているタイプが外羽根式。前者はイギリス王室、後者はプロシアが発祥で、どちらも元は短靴ではなくブーツ型だった。
「どちらがフォーマルかといえば内羽根式なのですが、選びやすいという点では外羽根式でしょうか。内羽根式は羽根の開きが狭いぶん、調整できる範囲も少ないので、フィットするかどうかをよく確かめたうえで買ってください。一方の外羽根式は大きく開くので調整がしやすい。私たちシューフィッターの表現では、“足を選ばない靴”と呼んでいます」
革靴は種類によってフォーマル度が違う。
日本では一般的に、内羽根式のストレートチップがもっともフォーマル。だが、それ以外のデザインにもそれぞれに由来があり、微妙な差ではあるがフォーマル度が異なる。ここぞというとき、あまりに場違いな靴選びをしないためにも、ある程度の判断基準は知っておきたい。
「厳密にフォーマル度の順位が決まっているわけではなく、慣習、感覚的なところも多分にあります。たとえば、プレーントウはストレートチップの次にフォーマルとされていますが、装飾的なタイプよりはシンプルなものがフォーマルというくらいに覚えておけばいいと思います」
最近ではスーツに比較的カジュアルな革靴を合わせる人も多いので、それほど神経質にならなくてもいいと。とはいえ、全身のスタイルと靴のフォーマル度がちぐはぐにはならないよう心すべし。
靴選びは自分の爪先の形状をまず知ること。
あなたは何型ですか?血液型ではなく爪先の話だ。人間の爪先の形状は3タイプに分かれていて、自分の型に合った形の靴を選ぶとベターなのだという。
「70%くらいの人はエジプト型です。拇趾が第2趾よりも長いタイプですね。約25%の人は、拇趾よりも第2趾が長いギリシャ型。残り5%が拇趾と第2趾がほぼ同じ長さのスクエア型です」
多くの人がエジプト型なのに対して第2趾付近が長いトウ形状の靴も多いが、たいていの場合は許容範囲だと田島さん。
「爪先と靴のトウの形状が近いほうが望ましいですが、爪先が靴に当たらなければ大丈夫です」
ちなみに、型名の由来には諸説あるが、エジプトの壁画に描くときは親指を長めに描き、ギリシャ彫刻では人差し指を長めに造形したことからだといわれている。博物館で確かめてみなければ!
日本人も約7割がエジプト型。上写真のようなトウの形(オブリークトウ)の革靴がエジプト型に最適だが、他の形でも、爪先が靴に当たったり、きついと感じなければ問題ない。
革靴とスニーカーでは同じ25cmでも大きさが異なる。
サイズ表記はどの靴も共通かと思えば、革靴とスポーツメーカーのスニーカーとでは異なる場合が多いので注意が必要。
「革靴の場合は、靴のサイズ表記は足長とイコール。足長が25cmの人は基本的に25cmの靴を選ぶとちょうどいいはずです。ところが、スニーカーのサイズ表記は足長ではなく靴自体の全長。爪先の捨て寸も含めた表記になっていることが多いので、足長が25cmの人は、いつも26〜26.5cmくらいのスニーカーを選んでいるでしょう。逆に考えると、自分の足長は26cmと思っていた人が、採寸すると実際は25cmだったりするわけです」
革靴を買うとき、このサイズ表記の違いを知っていれば戸惑うこともないだろう。
フィッティングは「捨て寸」「ガース」にこだわる。
フィッティングで最初にチェックすべきは、やはり長さ。
「爪先の先に1〜2cmの余裕を持たせることが必須で、これを“捨て寸”といいます。履いた時点で爪先が靴に当たるようであればサイズが合っていません」
日本のメーカーの革靴ならば、自分の足長と同サイズの靴を選ぶと、爪先にちょうどいい捨て寸ができるように作られている。
「また、履くときに踵をしっかり合わせましょう。立って歩いたときにぴったりしている“踵の食いつき”も大事なポイントです」
さらに、長さだけではなく足囲も意識したい。
「趾の付け根よりもう少し甲に近いウエスト(下イラスト参照)のあたりが、ゆるくもきつくもなくフィットする感覚が大切です。ゆるいと靴の中で足が動いてしまいますし、革靴に折りジワができる原因にもなります」
フットソリューション甲用タンパッド(コロンブス)495円。甲の裏側に貼って「踵の食いつき」をよくする。
シューツリーはプラスチック製より木製がいい。
一日履いた革靴は、汗などを吸って湿気がこもっている状態。まずはひと晩ほど自然乾燥させてから、木製のシューキーパーを入れて収納しておこう。
「形崩れしないようにシューキーパーを入れておくことをお勧めします。プラスチック製のものもありますが、湿気をしっかり取ってくれる木製がいいでしょう」
上の写真はリーガルのレッドシダーシューツリーで8800円。天然のシダーウッドに含まれるオイルには防虫、防カビ、防臭の効果もある。天然の革だからこそ、シューキーパーも天然の木製を用意したい。爪先が分かれているタイプなのでさまざまな靴幅に対応する。
手入れは、馬毛ブラシと豚毛ブラシの2つがあると長持ちさせられる。
革の手入れは、するとしないとでは大違い。大事な靴を長持ちさせるために、基本の手入れを習慣にしよう。
「ほこり落とし用の馬毛ブラシと、クリームを塗ったあとに磨くための豚毛ブラシ、両方を使い分けるのがポイントです」
- まず柔らかめの馬毛ブラシでブラッシングし、土汚れとほこりを落とす。
- 液体もしくはクリーム状のクリーナーを布につけて拭く。
- 革の種類に応じたクリームを全体に均一に塗り広げながら布で磨く。クリームは1足につき豆粒大ほどでOK。
- 仕上げにコシのある豚毛でブラッシングする。さらに撥水スプレーをかけても。
「最初は面倒に感じるかもしれませんが、慣れれば5〜10分で完了します。10回履くごとに1回手入れをするくらいのペースで構いませんが、馬毛ブラシでのほこり落としは毎回行いたいですね」
おしゃれ・カジュアルな革靴カタログ7選
勝負靴にしたいフォーマルシューズから、カジュアルなスタイルに合わせたいものまで、人気ブランドの名品を一挙ご紹介。
ここまでの豆知識を参考に、内羽根式か外羽根式か、どの程度フォーマルなシーンで履きたいか、自分の爪先や足囲に合った形はどれかなどを勘案して、お気に入りの一足を選ぼう。なお、革靴の価格は、フォーマル度ではなく革の希少性や製法の違いによるところが大きいのだそう。
田島さんも話していたように、最近のビジネスシーンではカジュアルな革靴をスーツに合わせることもありの傾向。革靴をもっと気軽に楽しんでみては?
リーガル
トウと踵の部分に“スクラッチタフレザー”という傷のつきにくい革を採用したモデル。シャープでモダンなシルエットを持ったストレートチップ。35,200円、WEBサイト
エコー
洗練されたプレーンなダービーシューズ(外羽根式)。軽量で、長時間履いても疲れにくい。ECCO METROPOLE SEOUL 39,600円。一部店舗限定販売。WEBサイト
ホーキンス
ドレスシューズのようなデザインながら、機能が満載でスニーカー並みの履き心地を実現した“走れるビジネスシューズ”。HB22010 プレーン シューズ12,100円、WEBサイト
ロックボード
やや丸みのあるトウのウィングチップ。軽量性とプレートがもたらす安定性が魅力。トータルモーション アマルフィ ウィングチップ28,600円、WEBサイト
ジャランスリウァヤ
オーセンティックな革靴としてはリーズナブルな価格も魅力。こちらはラバーソールだが、ソールが革のタイプも。Uチップ ダービーシューズ41,800円、WEBサイト
カンペール
個性的な靴が多いこのブランドで、あえてプレーントウのシューズを。クラシックな中に現代的なひねりの利いたデザイン。Dean ダービーシューズ30,800円、WEBサイト
パラブーツ
フランスの老舗ブランドのローファーは憧れの逸品。丈夫なつくりながら軽量な履き心地。カジュアルに履くなら黒に限らず茶も候補に。ADONIS H 99,000円、WEBサイト