イニエスタ着用スパイクの陰の立役者。フットウェアクリエイターって?
今年9月にイニエスタ選手が〈キャピテン〉を設立。スパイク作りのパートナーを務める井上晋平さんは、一人でシューズ作りの全てを担うことができる異色の存在だ。
取材・文/神津文人 撮影/石原敦志
初出『Tarzan』No.844・2022年10月20日発売
フットウェアクリエイターという職業
2022年9月、元スペイン代表のアンドレス・イニエスタ選手がフットボールブランド〈キャピテン〉を立ち上げた。そのスパイク作りのパートナーを務めるのがフットウェアクリエイターの井上晋平さん。
その仕事内容は一体どんなものなのだろうか。
井上晋平さん
フットウェアクリエイター
いのうえ・しんぺい スポーツシューズの世界で25年以上、デザイン・企画・開発・マーケティング・プロモーションを経験。10代の頃からサッカー指導者も続けている。
「〈キャピテン〉に関しては、デザインはスペインのクリエイティブチームが行っていますが、それ以外のあらゆることを担当しました。イニエスタ選手のリクエストを聞き、足型を作り、ソールの樹脂を選んで、アッパーのレザーを手配し、製作を工場に依頼し、小売店とのやり取りもしています。作るところから、売るところまでを一気通貫でできるのが、僕の強みだと思います」
大手スポーツメーカーであれば、企画、開発、小売店等への営業、宣伝、選手担当は別であることが一般的。一人でシューズ作りの全てを担うことができる井上さんは異色の存在だ。
「〈アシックス〉で働いていたときに、一から十まで経験できたことが大きいですね。サッカーシューズの企画と開発がメインでしたが、店頭販促と営業のサポートや、マラソンイベントのプロモーションも担当しました。トップアスリートはもちろんですが、その代理人やプロチームの責任者、工場や小売店との関係構築ができたことは財産になっています」
「シューズ作り」もサッカーに関わる仕事の選択肢になる
〈アシックス〉退社後には、フットボールブランド〈アスレタ〉のシューズ部門の立ち上げに参画。ゼロからのスタートも経験した。
「地盤がない状態からだったので、これも貴重な経験でした。生産のクオリティコントロールのために工場や倉庫での検品作業もしましたし、ゼロから少しずつ店頭でのシェアやユーザーからの支持が増えていく体験もできました」
実は井上さん、主にジュニアユース世代の指導者でもある。10代の頃にセゾンフットボールクラブで指導を始め(元日本代表の乾貴士選手も指導、今でも付き合いがあるそう)、現在はFCワンセンス武蔵野で監督を務めている。
「選手の言葉を反映できるので開発にも役立っていますし、教え子に作ったスパイクを試し履きしてもらうことも。僕の仕事を見て、選手や指導者だけではなく、サッカーに関わる仕事の選択肢としてシューズ作りにも興味を持つ子が出てきたら嬉しいですね」