- 整える
タンパク質と、何が同じで、どう違う?ジェーン・スーと〈味の素(株)〉社員が語るアミノ酸のこと。
PR
性欲=本能、とは単純には割り切れない。セックスレスやED、あるいはなぜヒトが浮気をしてしまうか、など謎はつきない。医師や鍼灸院の院長、さらには日本家族計画協会理事長に訊ねた、ヒトの性欲についてのトピックス。
こちらもチェック! 関連記事:
目次
男性がセックスに対して積極的になれない理由の1位は、「仕事で疲れている」から。日本家族計画協会の調査では、セックスレスの男性の63%は勤務時間が通常より長いという。
「勤務時間が週に49時間を超えると、セックスレスの男性が増えることが分かりました。婚姻関係があるのにもかかわらず、その44%はセックスレスという現代、長時間勤務にならないような企業側の配慮も必要だと思います」(日本家族計画協会理事長・北村邦夫さん)
週49時間以上の労働というと、1週間のうちトータル10時間、1日当たり約2時間の残業をしている計算。オレもオレもという男性は少なくないと考えられる。週60時間以上の勤務時間が過労死のボーダーラインとすれば、週49時間が性欲ダウンのそれ。
女性医療クリニック・LUNAグループ理事長の関口由紀さんによれば、「血管と神経が守られていれば、男女とも70歳でも80歳でもセックスはできます。女性の場合、閉経して女性ホルモンが低下して膣が萎縮するのは40%くらい。残りの人は何歳になっても恋に落ちたらセックスできます」とのこと。
超高齢化社会に突入したニッポン国民としては、何やら元気の出る話。でもその一方で、挿入だけがセックスとやたら張り切ってしまうのはちょっと考えもの。
「セックス時の運動量は100メートルダッシュと同等で、心拍数は180に至ることもあります。高血圧の人の場合は命に関わることも」(北村さん)
カラダのためにはパートナーと合意のうえ、優しいスローセックスを。
一般成人男性の場合、体内で働く遊離テストステロンの値は14〜20ピコグラム。これに対して少ない男性は10ピコグラムを切っているという。
「これは50歳以上の男性の平均値。若い男性でもこういう数値の人がいます」(銀座上符メディカルクリニック院長・上符正志さん)
理由のひとつは、社会的背景。
「ライバルを蹴落として出世をするとか、車や家が欲しいとか、そういう意欲がある人ほど、脳が精巣に対して男性ホルモンを作れという指令を出します。出世はそこそこ、車も家もいらないというタイプはその逆で、精巣の中の精子が増えも減りもしない。その悪循環で脳と精巣のフィードバックが断たれてしまう傾向があります」
ゲームで戦ってますという男子、バーチャルでは男性ホルモンは出ないのだ。
勃起不全、いわゆるEDの治療薬として知名度が高いのがバイアグラ。ただ、作用が4時間程度と短いのが玉にキズ。
「これに対して、増えてきているのがシアリスというED治療薬。こちらは服用後36時間作用します」(順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科准教授・白井雅人さん)
ED治療薬の作用機序は下の図の通り。
「性的刺激を受けると、神経の末端から血管を緩める物質が放出され、平滑筋の細胞内で細胞を広げる物質が作られます。ここまでは自前の反応。ED治療薬はこの細胞を広げる物質を他の物質に変換する酵素の働きを阻害します」
金曜日の夜に飲めば、日曜日の昼間まで作用が続くので、この間にその気になればセックス可能。勃起しっぱなしになるわけではないので、ご心配なく。
男性の性機能障害で最も多いのが勃起不全(ED)。性欲はあるけど思うように勃起しないという悩ましい病態だ。ところがこれ、単なる性機能障害に留まらないのではないかという説がある。
「大きな血管障害の前兆ではないかという説です。陰茎に至る動脈はかなり細い血管。勃起はこの動脈から血液が流れ込むことで成立します。そこに障害があるということは、次にもっと太い血管に障害が起こる可能性があるかもしれないという血管理論です」(白井さん)
実際、EDに陥る人の中には、動脈硬化や高血圧、糖尿病など血管障害の傾向が見られることが多い。EDは将来、心臓、脳、下半身に血液を送り込む大動脈に何らかの異常が起こるサインではないか、とも考えられる。ご用心を。
男性の性機能障害に「膣内射精障害」というものがある。文字通り、女性の膣の中で射精できないという障害だ。小堀さんはその原因のひとつが、間違ったマスターベーションにあるのではと警鐘を鳴らしている。
「床に性器をこすりつけてオナニーをする、いわゆる“床オナ“がそれです。床に性器をぎゅっと押し付ける刺激に慣れてしまい、女性の膣の中に性器を入れても快感が得られず射精できないという状態です」
10代の頃からこうした間違ったオナニーを繰り返すことによって、結婚しても射精障害に悩む男性が少なくないという。男性用のマスターベーション器具などを利用した射精リハビリなどの対策があるが、床オナはとにかく厳禁。
東洋医学でいうセックスには2つの種類がある。
「ひとつは欲望を満たすための“性欲”、もうひとつは子孫を残すための“生殖欲”です。前者は生命力がどんどん減ってしまうセックスで、後者は逆に生命を生み出すための男女のエネルギーの交流と捉えられています」(源保堂鍼灸院院長・瀬戸郁保さん)
女性は陰、男性は陽。何もないところで陰と陽のエネルギーが衝突して生命が生まれる。よいセックスとはまさしくビッグバンというのが東洋医学の考え方。
「セックスというのは宇宙につながる行為。近々では両親ですが、最後には宇宙に通じる話。それほど壮大な行為であることを意識してください」
宇宙創造。これはおろそかにできない。
東洋医学では“性欲”主体のセックスはたまにはいいけど、やりすぎはちょっと問題。それよりはパートナーとの気を巡らせる“生殖欲”主体のセックスを重んじる傾向がある。
「“生殖欲”といっても必ずしも実際に子どもを作るという性行為ではありません。たとえば手をつなぐだけでもいい。男女のエネルギーがうまく交流して、新たなエネルギーを生み出すことが重要です。そのための最大のコツは、“接して漏らさず”です」(瀬戸さん)
具体的には交接した状態をできるだけ長く保つということ。性欲主体のセックスで目先のプレイに興じていると、精気がどんどん漏れ出してしまうという意味。ゆっくり焦らず、性器を密着させたスローセックスがよろしいかと。
ほとんどの国では一夫一婦制が採用されているが、もともと人類は乱婚型ではないかという説がある。
「多妻多夫制ということです。男性器の亀頭部分が肥大している陰茎の形は、女性の膣の中で前に射精された他の男の精子をかき出すためではないかという説が、最近では有力です」(関口さん)
パートナーの男性が狩りに行っている間に隣のおじさんと。女性が木の実を採りに行っている間に隣の少女と。
「でも子どもを産めば最低3年は手間がかかるので、男性の庇護が必要です。女性が昔から強くてお金持ちの男性が好きなのはそのため。また、女性がオーガズムに達すると、男性は自分の性的能力に満足感を得て、子どもに責任を持つ。そんな仕組みだったかもしれません」。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/高橋 潤(DRAWS) 取材協力/上符正志(銀座上符メディカルクリニック院長)、北村邦夫(日本家族計画協会理事長)、小堀善友(医学博士、獨協医科大学越谷病院泌尿器科)、白井雅人(順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科准教授)、関口由紀(医学博士、女性医療クリニック・LUNAグループ理事長)、瀬戸郁保(源保堂鍼灸院院長)
(初出『Tarzan』No.701・2016年8月10日発売)