あのランニングシューズの名品に宿る、ブランドの歴史と思想。

速さ、快適さ、安定性、足本来の動き。ランニングシューズは、ブランドごとのフィロソフィーと技術によって進化してきた。その歴史を辿れば、一足に込められた思想が見えてくる。各ブランドの一推し3足は、『Tarzan』935号「RUN FOR LIFE! ランナーたちは、なぜ走るのか。」で紹介中。

text: Fumihito Kouzu, Yuhi Kon photo: Hirokazu Kobayashi styling: Yutaka Aoki hair & make-up: natsuo edit: Tamio Ogasawara

『Tarzan』No.935 on sale October 8, 2026.

男性が色々なシューズを肩にかけている様子

〈adidas〉すべてのランナーにスピードを。

初代《アディゼロ アディオス》

初代《アディゼロ アディオス》のプロト。

〈アディダス〉のランニングシューズを代表するのは、《アディゼロ》シリーズだ。2008年、初代《アディゼロ アディオス》のプロトタイプを履いたハイレ・ゲブレセラシェが当時の男子マラソンの世界記録を更新。11年にはパトリック・マカウが、14年にはデニス・キメットが《アディゼロ》で世界記録を塗り替えていった。

そして26年4月、セバスチャン・サウェが《アディゼロ アディオス プロ エヴォ 3》とともに、1時間59分30秒という驚異的な世界新記録をマーク。人類史上初のフルマラソン2時間切りを達成した。進化を続ける《アディゼロ》の、これからにも注目したい。

〈Altra〉正しい姿勢とバランスをサポート。

ブランドの原点、初代《ローンピーク》。

ブランドの原点、初代《ローンピーク》。

2009年にアメリカ・ユタ州で創業した〈アルトラ〉のコンセプトは、人間の足が本来持っている能力を引き出し、自然な走り方を促すこと。裸足だときれいなフォームで走れるランナーが、シューズを履くとフォームが崩れてしまう。それに疑問を抱いた2人の創業者が既存のシューズをオーブントースターで加熱・分解し、ゼロドロップのシューズを作ったのが始まりだ。

ゼロドロップ構造は、正しい姿勢とバランスの維持をサポート。前足部が広い独自の足型は、足指が自然に広がり、足が持つ着地時の衝撃を和らげる力を引き出す。そんな〈アルトラ〉は、現在のベアフットトレンドの中心にいる。

〈ASICS〉“最適”が見つかる充実の品揃え。

初代《ソーティ》。薄底時代を牽引した名作。

初代《ソーティ》。薄底時代を牽引した名作。

〈アシックス〉初のレース専用マラソンシューズとして《ソーティ》が登場したのは、1981年。抜群の軽量性と優れたフィット感、高いグリップ力でシーンを牽引。これを原点とし、数多くの名品が生まれていく。シドニー五輪で高橋尚子が金メダルを獲得した際に着用していたのも、《ソーティ》シリーズだった。

2019年には、トップアスリートが勝てるシューズを開発するためのプロジェクトチーム、Cプロジェクトが発足。21年に同プロジェクトから《メタスピード》シリーズが誕生。トップアスリートから市民ランナーまで、多くのランナーに支持されているのはご存じの通りだ。

〈BROOKS〉110年以上の歴史を持つ超老舗。

《ヴァンテージ》

EVAを採用した名作シューズ《ヴァンテージ》。

1914年にアメリカで誕生した〈ブルックス〉。75年には、現在でも多くのランニングシューズに使われているEVA(エチレンビニールアセテート)を、世界で初めてランニングシューズのミッドソールに採用。

80年には、世界で初めてゴアテックスを搭載したランニングシューズをリリースしている。2001年に、総合スポーツブランドからランニング専門ブランドへ。注力が実り、11年にはアメリカのランニング専門店シェアNo.1ブランドとなり、約15年その座を守り続けている。

現在は、ブルーラインと名付けられた次世代開発チームがチャレンジングな商品開発を行っている。

〈HOKA〉厚底&ロッカー構造のパイオニア。

《ボンダイ B》(2019年の復刻モデル)

《ボンダイ B》(2019年の復刻モデル)。

膝や足首に負担をかけず、安全かつスピーディに山を駆け下りるシューズを作る。そんな思いから、2009年に立ち上がったフランス発祥の〈ホカ〉。試行錯誤の末に、ソフトで軽量な素材を使った厚底ミッドソール、靴底にカーブを設けた「メタロッカー」構造の組み合わせが誕生した。

11年にはブランド初のロードモデル《ボンダイ B》が登場。これを機にトレイルランナーだけでなく、ロードランナーからも支持を集めることとなった。

《ボンダイ》や《クリフトン》といった定番モデルは、個性的なデザインと快適な履き心地が支持され、タウンユースでも人気を獲得している。

〈MIZUNO〉進化を加速させるジャパンブランド。

初代《ウエーブライダー》

初代《ウエーブライダー》は1997年に登場。

25年12月、〈ミズノ〉は、軽量性、反発性、安定性を追求した新しいレーシングシューズ《ハイパーワープ》シリーズをリリース。大学女子駅伝やニューイヤー駅伝で、存在感を示した。

また、日々のトレーニングをサポートする《ミズノ ネオ》シリーズも人気を獲得している。これらの背景にあるのが、2022年に総事業費50億円をかけて建設された研究開発拠点、ミズノエンジンだ。

《ウエーブライダー》は、今年記念すべき30代目が登場。《ウエーブライダー》に搭載されている「ミズノウエーブ」は、クッション性と安定性の両立に成功した特許取得のテクノロジーだ。

〈New Balance〉ランナーの足に寄り添うシューズたち。

〈The TRACK at New Balance〉。

2022年に誕生した〈The TRACK at New Balance〉。

〈ニューバランス〉は、アーチサポートインソールや扁平足などを直す矯正靴のメーカーとして誕生。1960年代には、カスタムメイドのランニングシューズの製造をスタート。60年に登場したブランド初の一般向けランニングシューズ《トラックスター》は、世界で初めてウイズ(足囲)の選択ができた。

2022年に、アスリートのためのマルチスポーツ施設〈The TRACK at New Balance〉を設立。施設内にはニューバランススポーツリサーチラボ(イノベーションを担うスポーツサイエンティストのチーム)専用の設備があり、さまざまなデータの取得、研究が行われている。

〈NIKE〉シーンを牽引するリーダー。

《ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット》。

《ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット》。

イノベーターとして時代を牽引してきた〈ナイキ〉。42.195kmを2時間未満で走ることを目指したプロジェクト『Breaking2』は、歴史の大きな転換点となった。

それまで、エリートランナーがレースで着用するシューズは、軽量で薄底のものというのが常識だったのだが、『Breaking2』のために開発された《ヴェイパーフライ 4%》は、分厚いミッドソールが採用され、中にカーボンプレートが搭載されていた。

〈ナイキ〉のカーボンプレート搭載厚底レーシングは、2017年の登場以降、数多くの記録を生み出し、圧倒的なシェアを獲得。他社がそれに追随し、現在に至っている。

〈On〉常識を覆す機能、クラウドテック。

《Cloud 6 Waterproof》。

ベストセラーの《Cloud 6 Waterproof》。

市民ランナーのケガを防ぐために生み出されたシューズが、気づけば世界最高峰のレースでトップエリートの足元を支えるまでに。スイス生まれの〈On〉が起こしたこの旋風の理由は独自のイノベーションにある。

水道のホースを輪切りにしたようなデザインの「CloudTec®」は、着地の衝撃を和らげつつ、内蔵プレート「Speedboard®」が、力強い推進力へと変換。ケガを防ぎつつも全く新しい走り心地を提供してきた。

《Cloud 6》は、このテクノロジーを今なお色濃く継承するモデルとして人気だ。この高いパフォーマンス性に加え、ライフスタイルにも溶け込む洗練されたデザインもOnならでは。

〈PUMA〉目的別に最適化した速さへの挑戦。

《FAST-RB ニトロエリート FF》。

規格外の技術を投入した《FAST-RB ニトロエリート FF》。

1954年の男子100m世界記録樹立から続く「速さへの挑戦」という〈プーマ〉のDNA。その最前線にあるのが、競技規定の枠を外して開発されたコンセプトシューズ《FAST-RB ニトロエリート FF》だ。

既存の正解に縛られず、挑戦する姿勢がこのシューズに表れている。さらに軽さ・クッション・反発性を高次元で融合したミッドソール素材「NITRO FOAM」と、悪天候でも路面を確実に摑むアウトソール素材「PUMAGRIP」の誕生が、現在の快進撃の原動力となっている。

この挑戦への哲学と最強のテクノロジーを礎に、ランナーの目的に合わせて走り心地や反発性を最適化している。

〈Salomon〉“山”の技術をロードランニングへ。

《S/LAB PHANTASM》。

初代《S/LAB PHANTASM》。

山岳シーンで鍛え上げられた耐久性と最先端のテクノロジーを持つ〈サロモン〉。そのシューズを語るうえで絶対に外せないのが、トップアスリートとブランドデザイナーが共同開発を行う《S/LAB》だ。速さや軽さを極限まで研ぎ澄ませたハイエンドカテゴリーであり、時には極限までアッパー素材を削ぎ落とすなど、限界に挑戦している。

これを基にアスリートたちが最前線でテストし、貴重なフィードバックがほかのプロダクトへと還元されていく。この革新性を求める姿勢こそがサロモンのモノづくりのベースにある。その恩恵をロードでダイレクトに体感できる最新のシューズをぜひ。

〈Skechers〉快適さと速さを両立する技術。

《GO MEB Speed 3》

ボストンマラソン優勝を支えた《GO MEB Speed 3》。

ライフスタイルのイメージが強い〈スケッチャーズ〉だが、シリアスランでも圧倒的な実力を持つ。彼らの「快適さと速さは決して相反しない」という信念は、メブ・ケフレジギ選手のボストンマラソン優勝で見事に証明された。

着用したプロトタイプの《GO MEB Speed 3》は、2014年当時から快適なニットアッパーと強烈な反発のカーボンプレートを採用し、ランナーの持てる力を極限まで引き出した。

その後、安定感とクッション性の両立という難題をクリアした素材「Hyper Burst Ice」なども開発し、快適な靴は速い、という新しい常識のシューズを生み出し続けている。

〈TOPO Athletic®︎〉足本来の動きを引き出す独自の進化。

《ULTRAFLY》

ブランドを象徴していたモデル初代《ULTRAFLY》

創始者トニー・ポストが2013年にアメリカで立ち上げた〈トポアスレチック〉。初代《ULTRAFLY》の当時から足指がリラックスできる広いトウボックスと、着地を自然に導く低ドロップを採用し、本来の足の働きをサポートすることを根幹に置く。

しかし、そのスタイルだけに固執はしない。軸である独自のフィット感や、過剰なサポートを避けるガイダンスはそのままに、近年のランニングシーンを席巻する高反発トレンドにも果敢に挑戦。軽量・高反発素材をミッドソールにいち早く導入し、自然な履き心地と現代的な反発感を両立させ、シリアスランナーからも熱い視線を集めている。

〈Under Armour〉記録を生む“着る”シューズ。

《UAフロー ベロシティ ウインド2》

画期的だった《UAフロー ベロシティ ウインド2》。

グローバルなスポーツブランド〈アンダーアーマー〉は、ロードレース界でも躍進中。ボストンマラソンの女子部門で、契約選手のシャロン・ロケディが2025、26年と2連覇を達成。走行距離などを計測するスマートシューズ《UAフロー ベロシティ ウインド2》を発売するなど、独自の開発力で常に時代を先取り。

さらにこのシューズには、ソールに足を密着させる「WARPテクノロジー」も投入。コンプレッションウェア開発で培ったフィット感に対してのこだわりは、最新モデルにも生かされ、“着るように履ける”シューズでランナーの力を引き出し続けているのだ。