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「食べるな危険」の連続。古代ギリシャの英雄譚。|Move On Screen
話題の新作映画を通して、カラダや健康、生き方について考える。今回は、マット・デイモン演じるオデュッセウスの肉体改造と、食事が思わぬ災難を招く『オデュッセイア』に注目。食べること、食べないことの意味を考える。
text: Keisuke Kagiwada
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©2026 UNIVERSAL STUDIOS
「今回のゴールは食事と栄養面にあります」。パーソナルトレーナー兼理学療法士のゲイブ・スタンプは、映画『オデュッセイア』において、主役オデュッセウスを演じたマット・デイモンの肉体改造を監修するうえで、最初から彼にそう伝えていたという。
『オデュッセイア』の原作は、古代ギリシャの吟遊詩人ホメーロスの同名叙事詩だ。「トロイの木馬」作戦で10年続いたトロイア戦争に勝利したオデュッセウス率いる一行は、愛する妻とまだ見ぬ息子が待つ故郷イタケに帰還すべく、さらに10年の危険な旅を繰り広げることになる。
オデュッセウスはギリシャ軍随一と恐れられた智将だ。そのキャラに肉体的な説得力を持たせるため、デイモンは約4か月の準備期間内で、筋肉量を維持しつつ約7kgの脂肪を落とす必要があった。しかし、ハリウッドを代表するスターでありながら、庶民派として知られるデイモンの自宅ジムには、ダンベル、ケーブルプルダウンマシン、バーベルといった必要最低限の器具しかなかったらしい。
そこでスタンプが考案したのが、月・木曜は上半身、火・金曜は下半身の筋トレを、水曜は有酸素運動を行うという、一般人でも真似できるトレーニングメニューだった。そのうえで彼が付け加えるのが、冒頭で引用した発言である。
運動量を増やしたところで、摂取カロリーを気にしなければ、体脂肪を落とすことはできないからだ。デイモンはこの課題を十分なタンパク質を摂取しつつ、アルコール、グルテン、加工糖を控えたことでクリアしたという。
興味深いことに、『オデュッセイア』という映画自体も、目的達成の鍵を食事、より具体的に言えば「食べないこと」が握っている。実際、トロイア戦争を終えたオデュッセウス一行は、帰りの船で荒波に揉まれながら慢性的な食糧不足に悩まされるのだが、やっとありつけたかに見えた食事は、彼らをさらなる困難へと陥れる罠でしかない。
洞窟の奥で見つけた羊乳のチーズを食べたためにひとつ目の巨人から襲撃され、山頂で暮らす女性に食事を振る舞われたかと思えば、彼女の正体が魔女キルケーだったために食べた部下たちは豚に変えられてしまう。他にも、「太陽神の牛」や「蓮の花」も重要ではあるが、ネタバレになるかもしれないので、匂わせるにとどめておこう。
ところで、劇中では当時の文明の根幹をなす「ゼウスの掟」について何度も語られる。それは「客人は人間の姿をした神かもしれないので、食事を振る舞うなどひとしなみに歓迎し、客人もまたホストの優しさにつけ込むことなく敬うべし」という歓待の精神だ。オデュッセウスらを襲う「食べるな危険」的な事態は、他ならぬ彼自身が、戦争でこの文明を終わらせてしまった罰なのかもしれない。
いずれにせよ、撮影前のデイモンのトレーニングメニューが、格闘という名の有酸素運動と絶食にさらされるオデュッセウスの状況の縮小版なのは明らかだ。その意味でこのトレーニングは、カラダだけでなく精神的な役作りにもなったに違いない。
『オデュッセイア』
監督は『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーラン。トロイア戦争を終えたオデュッセウスの帰路と、イタケで彼を待つ妻や息子の物語を語る本作は、長編映画史上初の全編IMAXフィルムカメラで撮影された空前絶後のスペクタクルだ。9月11日より公開。WEBサイト


