筋トレは辛い、でも気持ちいい。快感が生まれる3つの理由。

騙されたと思って、プッシュアップを一度だけやってみてほしい。気持ちよさのピークは、終わった直後に訪れる。なぜそうなるのか。筋トレで得られる「快感情」の正体を、3つの理由で説明する。

text: Kenji Inoue illustration: Kezia Gabriella

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気持ちよさそうにプッシュアップをしている男性のイラスト
教えてくれた人

曽我啓史(そが・けいし)/東北大学加齢医学研究所スマート・エイジングセンター助教。研究と筋トレの二刀流でベンチプレス152.5kg、スクワット225kg、デッドリフト262.5kgを誇る。博士(スポーツ科学)。

中村雅俊(なかむら・まさとし)/西九州大学リハビリテーション学部教授。筋肉を中心とする運動器に対する筋トレやストレッチなどの効果や新しいトレーニング法の研究を日々続けている。理学療法士。

筋トレの快感、その正体。

トレーニングは、しんどいだけなのか。それとも、案外気持ちいいものなのか。そう聞かれたら、あなたはどう答える? 「辛いに決まっている!」と即答する人ほど、まだ“気持ちいい終わり方”を知らないのかもしれない。

日本で運動習慣がある人の割合はおよそ3人に1人。運動に限らず辛いことは長続きしない。トレーニングに何らかの気持ちよさを感じるからこそ、3人に1人が継続できているのだ。

問答無用の部活のしごきでもあるまいし、大人が自ら主体的に取り組むトレーニングは工夫次第でいくらでも気持ちよくできるのである。

そう聞いてピンと来なくても、騙されたと思って一度筋トレしてみよう。なにしろトレーニングで気持ちよさ(快感情)をもっとも感じるのは、始める前でも最中でもなく、終わった後なのだから。

前向きになった人の背中を押すため、ここではトレーニングの気持ちよさの正体を深掘り。3つの視点で整理した。その解明に協力してくれたのは、最先端のトレーニング研究を続ける傍ら、自らもハードな筋トレを欠かさない2人の若き研究者だ。

一度トレーニングの気持ちよさを体感しているにもかかわらず、中断しているタイプも、この快感情の真実を知れば、ワクワクして再び挑みたくなるに違いない。

1.自己効力感が高まる。

鉛筆を持った女性がチェックマークを記入している様子

筋トレで自身のコマンド(指令)通り筋肉を動かせたら、「自分もやればできる」し「できなくても価値ある存在」と認められる。

筋トレを正確にこなせるのは、自らの意思で思い通りにカラダ=筋肉を操れている証拠。

「それは身体的な自己効力感につながり、達成感などの快感情を呼び起こすきっかけとなります」(東北大学の曽我啓史助教)

自己効力感は、ある行動を「自分ならやり遂げられる」という自信。その通り実現できたときに生じる爽快感が、達成感だ。筋トレは負荷や回数など成果が具体的で見える化しやすく、自己効力感も達成感も高まりやすい。

「前より1回多くできた」といった成功体験を得やすいので、続けるほど自己効力感が上がり、それが継続する意欲を高め、自己効力感アップにつながるという好循環へ導く。

そしてカラダを思うように変えられたという身体的な自己効力感は自尊感情(セルフ・エスティーム)へ昇華する。その過程は「運動と自尊感情モデル(EXSEM)」で説明される(下参照)。

自己効力感は「自分ならできる」という感覚だが、自尊感情は「できても・できなくても」自らを価値ある存在として肯定的に認める感情。

日本の若い世代は諸外国と比べて自尊感情が低いとされるものの、筋トレを通じて自己効力感が上がれば、自尊感情の向上につながる。それは仕事にもプライベートにも自信を持ち、胸を張って取り組む糧となるはずだ。

自己効力感が「自尊感情」の土台となる。

運動と自尊感情モデル(EXSEM)の図

青少年を対象とした英語論文のシステマティックレビューにより、筋トレが自己効力感の向上に有効だという結果が得られた。その論文で用いられた「運動と自尊感情モデル(EXSEM)」を上図で示した。

出典/Collins et al, Sports Medicine-Open 2019; 5: 29

2.没入して、ストレスを忘れられる。

ヨガをしている女性のイラスト

マインドフルネスは仏教の瞑想から思想的要素を取り払ったもの。ストレスが軽くなり、創造性もアップ。筋トレにも同様の作用が?

現代人は常時ストレスと緊張にさらされる。そんな状況でもマルチタスクで仕事がこなせると「シゴデキ」として評価されるが、無理してシゴデキとして振る舞っているとますますストレスも緊張も強まり、脳疲労が溜まる。

こんな息苦しい現実から救い出してくれるのが、筋トレ。正しい軌道で動けているか、狙った筋肉にきちんと負荷をかけられているかなどに集中できるから、仕事も何もかも忘れられる。

「スマートフォンでSNSを見た後だとトレーニング量が落ちるという研究がある。それだけ筋トレには集中が求められるのです」(西九州大学の中村雅俊教授)

ゆえに、筋トレはマインドフルネスでもある。マインドフルネスとは、過去でも未来でもなく「今・ここ」に照準を絞る精神状態を意図的に作り出すこと。ストレスや疲労感を軽くし、心を穏やかにする心理的な効果で知られる。

マインドフルネスでは呼吸以外はじっとすることが求められるけれど、それはマルチタスクに慣れた現代人には難しい。

筋トレなら否応なく「今・ここ」に没頭できるので、マインドフルネス並みの効果が得られそう。情報過多でキャパオーバー気味の脳にとり、マインドフルネス的筋トレにイマーシブ(没入)できる時間は「無」の境地の心地よさをもたらす。

スマホを使ってからだと筋トレ効果はダウン。

総負荷量を対照群(ドキュメンタリーを30分視聴)と比較したグラフ

男女16人の参加者に、スマホでSNSアプリを30分間使った前後でハーフバックスクワットを3セットずつ行ってもらい、総負荷量を対照群(ドキュメンタリーを30分視聴)と比較。スマホ群では負荷量が落ちていた。

出典/Percept Mot Skills. 2021 Aug; 128(4): 1640-1659.

3.脳が運動を求めるようになる。

脳が運動のことを考えているようなイラスト

乳酸は「疲労物質」の汚名を着せられていたが、現在は脳の前頭前野への作用により運動に前向きな行動を促す可能性も指摘される。

筋トレと脳は切っても切れない関係にある。筋トレで鍛える筋肉(骨格筋)の動きをコントロールしているのは脳。ゆえに筋トレをすると筋肉が大きくなるばかりではなく、脳にも変化が起こる。

その鍵を握る物質が「乳酸」。乳酸は高い強度のトレーニングをすると、糖質を代謝する過程で筋肉で作られる。生じた乳酸の一部は筋肉内のエネルギー源として活用される。また、同時に血液循環によって他の組織でも利用される。

そして運動時に乳酸を積極的にエネルギー源とするのが、脳。

「運動によって産出された乳酸が脳機能の向上につながることが示されています。目標に向かって自らの行動や感情を制御するといった脳の高次な機能に運動由来の乳酸が関与しているようです。運動によって乳酸の活用を円滑にできれば、いわばトレーニング脳になり、高まった脳機能とともに目標に向かって筋トレが続けられる可能性があります」(曽我先生)

そもそも運動が続かない大きな理由は、脳が運動をコストと捉えるから。脳は1日の消費エネルギーの約20%を使う。筋トレで筋肉を動かして〝余計な〟エネルギーを浪費したくないから、運動にブレーキをかけようとするらしい。

「運動を続けるには脳に何らかの報酬がいる。その一つが快感情だという仮説は成り立ちます」

筋肉から分泌された乳酸は脳に働く。

筋肉から分泌された乳酸菌は脳に働くを記した図

筋トレをすると筋肉で乳酸の分泌が増える。乳酸は筋肉でエネルギー源となる以外にも全身に運ばれており、脳では筋トレへの意欲を高めることも考えられる。そこには未知のマイオカインが関与する可能性も?