
自然の危険は、ひとつではない。
2025年はクマの出没に関するニュースをよく目にした。人里近くでの目撃情報も後を絶たず、被害件数も年々増加。危険性は増すばかりだ。しかし、山や自然の中での危険は、クマだけに限らない。
クマのような「わかりやすい危険」は強く印象に残るが、そればかりに気を取られていると、もっと遭遇確率が高く身近な危険を見落とすことにもなりかねない。
例えば、日本において、人間を最も死に至らしめている野生生物は、クマではなくハチである。市街地でも被害が発生しており、毎年20人前後が死亡している。また、マダニも深刻。媒介するSFTS=重症熱性血小板減少症候群の患者数は、これまで最多だった2023年の134人を、25年では8月時点で上回った。
とはいえ、闇雲に恐怖を煽りたいわけではない。大切なのは、イメージだけで怖がるのではなく、その危険の実態や遭遇確率を知り、「正しく恐れる」ことである。

1.ツキノワグマ|ヒグマとは分類上別種。高い木登り能力を持つ。
日本に生息する2種のクマの中で、主に本州と四国に生息。平均的な個体は80kg(オス)程度であり、ヒグマと比べて小型。本来は臆病な性格だが、近年は攻撃性が高まっているとする説もある。彎曲した爪を持ち、ヒグマより格段に木登りが得意。その爪で攻撃されると人間はひとたまりもない。
2.ヒグマ|巨体と力強さの象徴。基本は植物食の雑食性。
北海道を象徴する大型の野生生物であり、国内最大の陸生哺乳類。その力は圧倒的だが、食性は肉食ではなく、フキや木の実、昆虫、魚なども食べる雑食性。ただし、子連れの個体や、人間の食料の味を覚えた個体は極めて危険。10〜11月は冬眠に向けて食い溜めする時期であり、特に活発になる。
3.キツネ|「かわいい」の裏側にあるエキノコックスという脅威。
主に北海道に生息するが、本州にもホンドギツネという種類がいる。肝臓の病気を引き起こすエキノコックスという寄生虫の親虫を宿している個体がおり、糞便を介して水や山菜を汚染する。かわいいからといって直接触れたり、個体数が多いエリアでは川の水を煮沸せずに飲むのも危険だ。
4.ニホンザル|知能と器用さが厄介。集団での「強奪」に注意。
知能が高く、非常に器用な手指を持つ。過去にはテントのジッパーを自ら開け、中の食料を漁ったという例も。シカやイノシシと違い柵も乗り越える。集団で人を威嚇し、手に持つ食べ物を強奪されることもあり、特に女性や子どもは甘く見られがち。引っ搔きによる感染症のリスクも軽視できない。
5.ヤマカガシ|奥歯に持つ猛毒。「おとなしいから安全」は噓。
かつては無毒とされたが、1984年に死亡例があり、奥歯に強い毒(出血毒)を持つことが判明。上顎の奥に毒腺があるため、深く嚙まれなければ毒を注入されにくく事故例は少ない。性格も基本的にはおとなしいが、刺激すれば当然、危険な毒蛇である。色柄には地域差があるので、油断は禁物だ。
6.イノシシ|鋭い牙と猛烈な突進。ハンターも恐れる危険性。
オスは鋭い牙を持つ。正面から突進されると、その牙が人間の内腿に当たりやすく、太い血管を損傷してしまうと失血死の危険性も。その突進力は凄まじく、ハンターの中には「クマより怖い」という者もいる。シカなどと比べれば遭遇率は低いが、罠にかかり興奮した個体は特に危険だ。
7.マムシ|国内で最も被害が多い。死亡率は高くないが強毒。
日本全国に生息する代表的な毒蛇。比較的攻撃的で、刺激すると威嚇をしてくる。攻撃範囲(約30cm)に入らないように注意すべし。毎年1,000〜3,000件ほどの咬傷被害があり、死亡率は0.8%程度。死亡例のほとんどが高齢者とされる。毒は出血毒で、嚙まれた場合は安静にし、すぐに医療機関へ。
8.マダニ|見落としがちな「死」の危険。媒介する感染症が拡大中。
近年、マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)による死亡例が増加。特に多いのは西日本が中心だが、発生エリアは東北地方などにも拡大している。吸血されたら、無理に引き剝がすと口が傷口に残り化膿するため、山では専用の器具を持ち歩きたい。下山後は早めに受診を。
9.スズメバチ|日本のアウトドアで最も警戒すべき生物。
毎年20人前後が命を落としており、獣害による死者数を遥かに上回る危険生物。毒性そのものに加え、一度刺されると抗体ができ、2度目に刺された際のアナフィラキシーショックが特に恐ろしい。夏から秋は最も活動的。遭遇したら手で払わず、ゆっくりとした動きでその場を去ろう。

