紅葉、絶景、森林浴にグルメ、秋に歩きたいコースガイド10選。

「今から“フラット登山”を始めたい」という初心者でも楽しく歩けるコースは、日本各地に存在する。歩きやすさや歩行距離を踏まえ、チャレンジしやすい山から順に、より体力が求められる山へと並べてご紹介。

取材・文/小林百合子

初出『Tarzan』No.912・2025年10月9日発売

1.渡良瀬遊水地【栃木県ほか】|栃木のウユニ塩湖で大スケールな散歩。

渡良瀬遊水地

巨大な湖と葦原が作る景観は日本とは思えない。湖が鏡のように周囲の風景を映す様子を見たいなら、晴れの日に。

渡良瀬遊水地は栃木・群馬・埼玉・茨城県にまたがる日本最大の遊水地。公園としても整備されており、ほとんどが舗装路。スニーカーでも快適に歩ける。

巨大な湖の周囲にはのびのびとした葦原が広がり、そのスケールと美しい景観から「栃木のウユニ塩湖」という異名を持つとか。

晴れた日には鏡のように空と雲を映す湖を見ながら歩き、渡良瀬川のほとりにはどこまでも続く草原を歩ける遊歩道も。秋の澄んだ空気を感じながら歩くのが最高に気持ちいい!

渡良瀬遊水地

東武日光線柳生駅か板倉東洋大前駅が最寄り。中央エントランス近くに駐車場あり。湖を半周するコースもあるが、草原歩きをしたいなら渡良瀬川のほとりの遊歩道を歩くといい。

2.鎌倉アルプス【神奈川県】|鎌倉観光のついでに半日だけのミニ登山。

鎌倉アルプス

広々とした大平山の山頂付近。晴れた日は冬でも心地いい。トンビが多いので、お弁当を広げる際にはご用心を。

JR北鎌倉駅と鎌倉駅をつないで歩く天園ハイキングコースは、心地いいアップダウンを楽しみながら小ぶりな山をつないで歩けることから「鎌倉アルプス」の愛称で親しまれている。

途中の大平山には広々とした草原状の広場があり、お弁当スポット。途中にはロープをつたって登り下りする山道があり、ちょっとしたアスレチック気分を味わえる。

コース途中に寺院が点在するのも鎌倉らしく、町とセットで楽しむと、鎌倉の歴史や魅力をより深く感じられそう。

鎌倉アルプス

北鎌倉駅と鎌倉駅をつなぐルートなので、起点と終点はどちらにしても便利。雨の後は登山道がぬかるんで歩きにくいので、天気と相談して出かけることをおすすめする。

3.くじら山【東京都】|公園をつないで歩く森とせせらぎの道。

くじら山

護岸がなく、自然な川の姿を残す野川のほとりを歩く。11月下旬から12月上旬には紅葉も見られる。

東京の府中、調布周辺には、野川公園や武蔵野の森公園など、多くの公園や緑地がある。武蔵野公園内には「くじら山」と呼ばれる築山があり、くじらの背のようにこんもり盛り上がり、原っぱが広がる風景は、なんとも愛らしい。

それらの公園をつないで歩くコースはほぼ平坦だが、途中では広々とした森や野川の清らかなせせらぎを感じられ、東京にこれほど豊かな自然が残っていたことに驚かされる。調布飛行場で間近に飛行機を見られるのも密かな楽しみだ。

くじら山

スタート地点の最寄りは京王線の飛田給駅。アップダウンはほとんどなくスニーカーでも歩ける初心者向き。雨の後には野川の河川敷がぬかるむことがあるので注意が必要。

4.白駒池【長野県】|みずみずしい苔の絨毯が広がる森へ。

白駒池

秋でも青々とした苔の森が広がる白駒池周辺。なんとその種類は519種と、日本最大級。

南北に長く延びる八ヶ岳連峰。特に北側のエリアは針葉樹林の深い森が広がり、神秘的な雰囲気。白駒池周辺には日本屈指といわれる苔の森があり、足元に緑の絨毯が敷き詰められたよう。雨や霧の日には水分を吸った苔がみずみずしく、しっとりした森歩きを楽しめる。

白駒池を一周するだけでも心地いいが、体力に余裕があれば山道を片道40分ほど登って山中にある山小屋〈高見石小屋〉へ。ややきつい登りもあるが、登山気分を味わうにはいい。登山道は岩が多いので登山靴が必須。

高見石小屋の裏手の岩場・高見石を登ると、頂上から豊かに広がる森が見渡せ、山中に点在する愛らしい池の姿も。高見石小屋の名物・揚げパンとコーヒーで一服し、ゆっくり下山しよう。

白駒池

白駒池の入り口には駐車場とバス停があり、そこから池までは15分ほど。10月中旬まではJR中央本線茅野駅からバス便の運行あり。白駒池の周囲には遊歩道があり、一周約40分。

5.碓氷峠【長野県】|街歩きも楽しめる“駅からハイク”。

碓氷峠

碓氷峠からは浅間山や妙義山などの山々を見渡す。紅葉は11月上旬頃までで、特にカエデが美しい。

軽井沢駅から歩き始められる碓氷峠までのルートは、旧軽井沢銀座の商店街をぶらぶらしながら、次第に森の中へと入っていくアプローチがいい。

紅葉の見頃は例年10月中旬以降で、真っ赤に色づいたカエデなど、色とりどりの紅葉を楽しめる。アップダウンは少なく、散歩気分で歩いていると気づけば峠に到着。見晴台からは軽井沢の町を一望できる。

峠にある〈しげの屋〉に立ち寄って名物の《ちから餅》を食べたら、下山するパワーがみなぎってくるはず。

碓氷峠

二手橋を過ぎた先に「遊覧歩道入口」の看板があり、そこから右の道へ入る。木立の中の一本道なので迷う心配はなし。帰りは碓氷峠からバスに乗って軽井沢駅まで行くもよし。

6.入笠山【長野県】|湿原歩きと山登り両方楽しむ贅沢コース。

入笠山

入笠湿原の草紅葉の見頃は例年10月中旬から下旬頃。シックなオレンジ色に色づくカラマツの黄葉も見事。

ロープウェイで一気に標高を上げられる入笠山は、登山初心者でも山頂からの絶景を楽しめるお得な山。

まずは入笠湿原を歩き、秋には黄金色のカーペットを敷き詰めたような風景に出合える。途中の山小屋〈ヒュッテ入笠〉を過ぎると入笠山の登山道が始まり、やや傾斜のある道を登っていく。

山頂までは片道1時間ほど。開けた山頂からは八ヶ岳や日本アルプスなど360度の大パノラマを望む。余力があれば山頂から歩き、大阿原湿原まで足を延ばすのもいい。

入笠山

ロープウェイが発着する富士見パノラマリゾートまではJR中央本線富士見駅から無料シャトルバスを利用。湿原には木道が整備されていて歩きやすいが、山は登山靴が必須。

7.野尻湖【長野県】|ナウマンゾウと邂逅? 広大な湖をぐるり散歩。

野尻湖

湖畔からナウマンゾウの化石が大量に見つかったことで知られる野尻湖。湖畔にはゾウにまつわるオブジェが。

広大な野尻湖を一周する道路を歩くコースは、ほとんどが舗装路で歩きやすい。歩くにつれて黒姫山や妙高山など北信エリアの美しい山々が見えてくる。途中にある「象の小径」は車道から離れた山道。

コナラやミズナラ、クリなどの広葉樹が多く、秋には紅葉も楽しめる。林間から見え隠れする野尻湖もまた趣がある。

湖畔にある〈野尻湖ナウマンゾウ博物館〉では湖から発掘された化石をもとにした実物大のナウマンゾウの復元像が見られ、立ち寄りにおすすめ。

野尻湖

野尻湖まではしなの鉄道北しなの線黒姫駅からタクシーで約10分。ほとんどが舗装路なのでスニーカーでも歩けるが、山道となる「象の小径」を歩くなら登山靴のほうがベター。

8.尾瀬ヶ原【群馬県ほか】|湿原を黄金色に染める、見事な草紅葉。

尾瀬ヶ原

湿原には湧き水などが作る池塘が点在する。水面に浮かぶヒツジグサの紅葉も美しい。

本州最大の高層湿原が広がる尾瀬ヶ原。秋には湿原全体が黄金色に染まる草紅葉が見頃で、周囲の山々も美しく色づく。

湿原内には木道が整備されており、山道に不慣れな登山初心者でも安心して歩ける。木道の上を歩いていれば道迷いの心配もなく、途中に点在する山小屋で軽食やドリンクなども楽しめる。

湿原の中の道にはほとんどアップダウンがなく、多少歩行距離が長くても体力的には問題なし。今回は尾瀬ヶ原を突っ切り、〈龍宮小屋〉を経て湿原を周遊するコースを紹介するが、疲れたら龍宮小屋から来た道を引き返してもいい。

登山口の鳩待峠から湿原入り口までは少し傾斜のある山道が1時間半ほど続く。湿原とはまた違った森の風景を見られ、ブナやミズナラなどの紅葉を楽しめる。

尾瀬ヶ原

登山口の鳩待峠までは上越新幹線の上毛高原駅からバスと乗合バスを乗り継いで2時間半程度。10月下旬頃から雪がちらつくことがあるので、事前に天気や気温などを確認しよう。

9.裏高尾【東京都】|高尾山の喧騒を抜け、静かな尾根歩きを。

裏高尾

裏高尾に入ってすぐのもみじ台からは綺麗に富士山が見える。紅葉の見頃は例年11月中旬から12月上旬。

東京都民の憩いの山といえば高尾山。山頂から神奈川県方面に延びる尾根道は「裏高尾」と呼ばれ、富士山を見ながらのんびり歩ける気持ちのいいルートだ。

途中には小仏城山、景信山と2つの山があり、それぞれの山頂近くには、おでんやなめこ汁などを食べられる茶屋が。山をつないで歩きながらグルメも楽しめるとあって、食いしん坊なハイカーが集う。

紅葉時期は特に賑わう高尾山だが、裏高尾は人が少ないのも魅力。静かに秋の山を味わうのにうってつけだ。高尾山は山頂付近までケーブルカーを利用し、体力を温存する手も。

裏高尾

本格的な山歩きは高尾山山頂から始まる。景信山から下山し、小仏バス停からJR中央線の高尾駅へ。バスの本数が少ないので事前に確認すること。

10.五色沼【福島県】|水の色の変化を楽しむ神秘的な沼めぐり。

五色沼

沼ごとに違った水の色に出合えるのが最大の楽しみ。紅葉は10月中旬から11月上旬が見頃。

磐梯山の北側にある五色沼は、毘沙門沼や赤沼、るり沼など大小30ほどの湖や沼が点在する湖沼群。沼によってエメラルドグリーン、コバルトブルー、ターコイズブルーと水の色が違って見える不思議な場所で、天気や季節によっても微妙にその色が変わる。

沼をめぐる「五色沼自然探勝路」は片道約1時間20分で、森の中のアップダウンが少ないコース。近くにある〈裏磐梯ビジターセンター〉で自然のことを学んでから歩くと、なお面白みが増すはず。コース途中からは磐梯山が望め、ダイナミックな爆裂火口壁が見える。

五色沼

探勝路の入り口へはJR磐越西線の猪苗代駅からバスで五色沼入り口へ。例年11月中旬頃から雪が降るが、スノーシューでの雪上ハイキングもできる。