健康診断のトリセツ〜血液検査の数値の見方

毎年の健康診断で行う血液検査。結果が届き、読んではみるも正直理解不能。そんな人も多いのでは? そこで、今回は項目別に数値の読み解き方を徹底解説。血液検査の結果を有意義に活用して、健康維持に役立てよう。

取材・文/石飛カノ 撮影/小川朋央 取材協力/重松宏(都庁前血管外科・循環器内科院長)

初出『Tarzan』No.834・2022年5月26日発売

血液検査結果

重松宏先生

重松宏先生

教えてくれた人

しげまつ・ひろし/東京大学大学院医学系研究科血管外科学助教授、東京医科大学外科学第二講座主任教授などを経て都庁前血管外科・循環器内科院長に就任。

この結果、読み解けますか?

血液検査の項目

上図は架空の血液検査結果。それを見て、何のことかパッと分かった人は偉い。でも頭で理解していてもカラダの方はどうだろう? 自分の検査結果を見て、いくつかの数値に上のような*マークがついていた人。それは「このままだとヤバいので注意してください」という意味。

血液検査の判定は基準値の範囲に収まるか否かで決まる。基準値とは健康な人の95%が該当する検査範囲のこと。LDLコレステロールなら60〜119mg/dLの枠内に健康な人の大多数が当てはまる。

検査数値の基準値 グラフ

検査数値は上のようなピラミッド形の正規分布を示すことがほとんど。統計学的に算出すると上下2.5%以外の95%の健康人が当てはまるのが基準値。

とはいえ、あくまで「基準」であって「異常」ではないところがポイント。健康な人が基準から外れることもあれば、不調を抱える人が基準範囲に収まることもある。前者を偽陽性、後者を偽陰性という。

都庁前血管外科・循環器内科院長の重松宏先生によれば、

「基準値を外れたら即病気とは言えません。だからこそ経過観察することが大事。基準値を外れた数値が出たら3か月後に再検査して経過を見るなど、数値と体調のすり合わせをしましょう」とのこと。

これを踏まえて、代表的な血液検査の数値を読み解いていこう。

あの数値ってどんな意味?

ヘモグロビン、LDLコレステロール、クレアチニン、HbA1c…って一体なんだそれ? 重松先生の解説のもと検査項目ごとに“あの数値”たちの意味を確認しよう。

貧血や血液の病気がわかる「血球検査」

検査項目 基準値 説明

赤血球数

男:400〜539万個/μL

酸素や二酸化炭素を運ぶ血液の細胞成分。貧血の有無を判断する。

女:360〜489万個/μL
ヘモグロビン

男:13.1〜16.3g/dL

赤血球内にある酸素の運搬役。貧血の診断などの指標になる。

女:12.1〜14.5g/dL

白血球数

3100〜8400個/μL

免疫細胞の主役。炎症があるときや血液の病気で数値が変動。

「若い女性に貧血が起こる主な原因は生理による出血。この場合は赤血球の数値が下がります。また、鉄欠乏性貧血はヘモグロビン値が下がってくるので、その違いで貧血の原因を判断します。

白血球が減る、あるいは増える場合は白血病や骨髄中の造血幹細胞に異常が起こる骨髄異形成症候群など、血液の病気の可能性が。万単位の数値になると前者、少なすぎると後者が疑われます」

動脈硬化の診断に関わる「脂質代謝検査」

検査項目 基準値 説明
総コレステロール

140〜199mg/dL

血液中に存在するコレステロールのトータルな数値。
HDLコレステロール

40〜mg/dL

血管内のコレステロールを回収する脂質。数値が低いと問題。
LDLコレステロール 60~119mg/dL 肝臓のコレステロールの運搬役。数値が高いと動脈硬化の疑いが。
中性脂肪

30〜149mg/dL

エネルギー源となる脂質。過食や過剰な飲酒で数値が高くなる。

「コレステロールの中で一番問題になるのはLDL。動脈硬化を起こす危険因子となるものです。中性脂肪も重要で、こちらはお酒を飲む人や直近の食事内容によってLDLより早く数値に反映されます。

検査の前日にとんこつラーメンや焼き肉を食べると、確実に数値は跳ね上がりますよ。HDLは相対的なもので運動によって数値が上がることも。全体としてはLDLが動脈硬化の指標になります」

糖尿病診断の指針となる「糖代謝検査」

検査項目 基準値 説明
グルコース ~99mg/dL 血液中に含まれるブドウ糖の数値。糖尿病の診断の一般的な指標。
HbA1c ~5.5%

ブドウ糖と結合するヘモグロビンの一種。こちらも糖尿病の指標。

「血液検査のグルコースは空腹時血糖値といって、検査の前日に食事を制限すると糖尿病予備軍の人でも基準値に収まることが多い数値です。

一方、ヘモグロビンA1cは血液中のヘモグロビンの一種で時間をかけてブドウ糖と結合。約120日という赤血球の寿命の間は血液中にあるので、1〜2か月前くらいまでの血糖値の動きが反映されます。どちらの数値も注意して見た方がいいですね」

排泄・濾過機能を判断する「腎尿路系検査」

検査項目 基準値 説明
クレアチニン 男:~1.00mg/dL 筋肉が使ったエネルギーの燃えカス。腎臓の排泄機能の判断基準。
女:~0.70mg/dL
eGFR 60.0~mg/min

推算糸球体濾過量。老廃物を尿に排泄する能力を測定する。

「eGFRは最近、血液検査に導入された検査項目で腎臓の糸球体という組織の濾過機能を示すデータです。この数値の良し悪しとクレアチニンの数値を合わせ見て腎臓の機能を評価することが多くなっています。

60㎎/dL以上が正常ですが、この数値を下回る人が実際少なくありません。ただ腎機能が悪くても、残念ながら決定的治療薬はありません。塩分制限をしながらの経過観察の目安になります」

人体最大の臓器の機能を表す「肝機能検査」

検査項目 基準値 説明
AST(GOT) ~30U/L 肝臓の細胞に含まれている酵素。肝臓の健康度を反映する。
ALT(GPT) ~30U/L 同じく肝臓の細胞に含まれる酵素。ASTとの比較で健康度を測定。
γ-GTP ~50U/L

タンパク質を分解する酵素。アルコールに対する反応性が高い。

「γ-GTPは過剰飲酒の指標にはなりますが、数値が高くても肝機能が低下しているとは言えません。異常がなくても数値が高い人もいます。重要なのはASTやALT。これらは肝細胞の崩壊産物ですから数値が高いのは問題。

最近の若い人に多い脂肪肝である可能性が高いと思います。とくに肝機能が悪くなると最初にALTの数値が上がってきます。50U/L以上になったらかなり深刻な状況です」

痛風の唯一の判断材料「尿酸検査」

検査項目 基準値 説明
尿酸 2.1〜7.0mg/dL

核酸の主成分であるプリン体の分解物。痛風の指標となる。

「プリン体は食事由来のものと体内で作られるものの2種類があります。数値が高く出るケースでは、プリン体を多く含む食事を好む人もいれば、尿酸の代謝がもともと悪い人も。

それだけに、数値が高いからといって即、生活習慣が悪いとは言い切れないのです。肉親の中に痛風患者がいたら遺伝の可能性が高いと考えられます。数値が8mg/dL以上になると発作が出ることが多いので経過観察を」

筋トレが影響する値

検査項目 基準値 説明
AST(GOT) ~30U/L 筋肉中のASTが筋トレの負荷で血中に漏れ出す。
LDH 120~245U/L 乳酸脱水素酵素のことで、肝臓、筋肉に存在する。
CK 40~160U/L

筋肉中に含まれるクレアチンキナーゼという酵素。

「ハードな筋トレが血液検査の結果として表れることもあり、ASTやLDH、CKといった項目がそれに該当します。ASTは肝臓だけでなく筋肉中にも存在する酵素。LDHも筋肉の組織、CKは心筋、脳、骨格筋に含まれる酵素です。

筋トレ後は筋肉の崩壊産物であるこれらの数値が上がります。そのため、レース後のマラソン選手が万単位の数値まで上がることも珍しくありません。トレーニーのみなさん、オーバーワークの指標にしてください」

お詫びと訂正(2022.10.05)

記事冒頭のヘモグロビンの測定値について「2.0」が誤った低すぎる数値だったため「13.4」に訂正いたします。

eGFRの単位について「mg/dL」が誤りだったため「mg/min」に訂正いたします。