• 35歳を迎えたアスリート、髙橋大輔が語る、2022年への想い
COLUMN
2021.05.17

35歳を迎えたアスリート、髙橋大輔が語る、2022年への想い

髙橋大輔
1986年、岡山県生まれ。2010年バンクーバー五輪で日本男子初の銅メダル、世界選手権で金メダルを獲得。2014年引退するも2018年に現役復帰。2020年にアイスダンスに転向。

約3年前に、引退を撤回して氷上に復活。さらに昨年、シングルからアイスダンスに。“北京”に向けて、再始動中の35歳に、いまの心境をスペシャルインタビュー。(雑誌『ターザン』No.808〈2021年4月8日発売号〉より全文掲載)

30歳を過ぎても、カラダは変わると実感。

パイオニアにしてレジェンド。今でこそ、フィギュアスケートの世界大会で日本男子が表彰台に上るのは珍しくない光景。その素地を築いたのは、彼、髙橋大輔だ。

一度は引退を表明したが3年前に復活を遂げた。「今後もパフォーマーでありたい」という強い思いから現役復帰の道を選んだのだ。それだけでもチャレンジングだが、挑戦はまだ続く。なんと昨年はシングルからアイスダンスに転向し、新たなるデビューを飾った。

髙橋大輔

「もともとアイスダンスはすごく好きな競技でしたし、引退したら趣味でやってみたいなと思ってました。同時にアイスショーで誰かと組んでパフォーマンスをするとき、勝手が分からなくてずっとコンプレックスがあったんです。誰かと組んでやりたいな、という気持ちはどこかにありました」

そんなとき、アイスダンスの村元哉中選手からのオファーが舞い込んだ。

「いや、悩みました。哉中ちゃんは日本を代表するアイスダンサー。彼女と組む以上、オリンピックを考えなきゃいけない。果たして僕でいいのかと。でも、僕は当時33歳。ここを逃したら新しいことに挑戦するのは無理かもしれない。最後は、“やってみないと分からないし、ダメならダメで仕方ない!”と思い切りました」

アイスダンスのすべてが未体験の世界。

同じ氷上の競技でも、シングルとアイスダンスの特性はまるで別物。靴のエッジの長さやトウの形も違えば、求められるスケートテクニックの精度も異なる。

「アイスダンスにはジャンプや4回転やペアでの高いリフトといった大技がないんです。その代わりステップやターンの正確性が厳しく採点されます。

それに、アイスダンスは二人で見せる競技なので脚の位置や腕の位置などのフォルムを合わせていかなきゃいけない。細かい部分の違いが点数に大きく響いてきます。より難しいことを簡単に見せて、どれだけ演技の中に溶け込ませていけるかが勝負」

髙橋大輔

これまではひたすら自分の遠心力と向き合い、テンションが上がればそのまま突っ走り、シンドいときは力を抜くタイミングを微妙に変えてきた。むろん、そんな自分勝手は御法度。アイスダンスで最も重視されるのは、二人のユニゾン(調和)だ。

「二人で揃ってひとつのものを見せていくためには、細かい手の流れや音の取り方、いろんなところに神経を遣っていかないと。アイスダンスを始めてからはインプットすることが多すぎて、ほぼ毎日テンパってました。今もテンパってます(笑)」

長年築いてきたキャリアとは別世界での、ゼロからのスタート。同じフィギュアスケートでは?とは言えない苦労がそこにある。

「大変です。でも、面白いとも思います。こんなこともできるようになった!というちょっとした喜びが日々あるんです」

今まで経験したことのないダンスリフトをこなすため、現在は上半身のコンディショニングや筋トレにも取り組んでいる。

「哉中ちゃんはとても姿勢がいいので、それに合わせるために肩甲骨まわりの柔軟性を養う必要がありました。僕、もともと猫背ですごくカラダが硬いんです。でも今は、若い頃よりどんどん可動域が広くなってます。

リフトの練習でも以前は1時間でひとつのリフトをこなすのに精一杯だったんですが、今は何種類かできるように。これも筋トレのおかげです。30歳過ぎてもカラダは全然変わるんだという実感がありますね」

視線は来年の北京へ。進化は止まらない。

今年3月で35歳の誕生日を迎えた。重ねてきた年齢と経験が、髙橋大輔独特の表現力にますます磨きをかけるのでは?と問うと、

「いや、僕は自分で自分の演技があまり好きじゃないんです」

意外な答えが返ってきた。

髙橋大輔

「“独特の世界観”と言われても、実感がないんです。年齢と経験といってもスケートばっかりしてきて人生経験も豊富じゃないので。そう多分…理想が高いんですね。スケートだけじゃなくいろんなすごい表現者がいて、自分は全然近づけてないなと凹みます」

フィギュア界のレジェンドなどという称号には甘んじない。その視線ははるか先に向けられている。

「今はスタート地点にやっと立ったという感覚。リフトもスピンもステップも僕自身まだ考えて動いていて、自然に動けていない。音楽が聞けていなかったり周りが見えていないこともまだまだ多い。それがなくなってくれば、シングルで評価されていた部分をプラスαしていけると思います」

その先に見据えているのは2022年の北京オリンピック?

「もちろん。目標にしています」

髙橋さん同様、『ターザン』も今年で35歳の誕生日を迎える。ともに切磋琢磨していきたい同級生。

「シングル時代はどれだけ体重を軽くするかがカラダ作りの中心でした。でも今は食べて筋肉をつけてプロテインを飲んでという生活。シングルのときのベストは60㎏で今は64㎏。腕の筋肉もこの1年でここまで太くなりました。でも、まだまだ細い。これから『ターザン』を読んでさらに鍛えます!」

かつて引退して復帰するまでは、スケート以外何もできない自分に歯がゆい思いをした。今はスケートがあるからこその自分、という思いで氷上に立つ。パフォーマー・髙橋大輔は未だ進化中だ。

取材・文/石飛カノ 撮影/伊藤彰紀、小川朋央 スタイリスト/折原美奈子 ヘア&メイク/宇田川恵司

初出『Tarzan』No.808・2021年4月8日発売

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