加賀温泉駅降りてすぐ。エキスポ会場へ。
東京駅から新幹線で3時間。加賀温泉駅の改札を抜けると、大会のお祭りムード一色。駅自体が大会の一部になっているといっても大袈裟ではない。すぐに運営スタッフが声をかけてくれ、レース前の動きについて確認できる。本大会では、多くの選手が山代温泉か山中温泉に宿をとって滞在するため、加賀温泉駅からは各自バスで移動となる。しかし、このオーガナイズのスムーズさは、都心だけでなく地方から会場入りをするトレイルランナーにとっては有り難い。

駅を出てすぐ目の前が、大会の受付に。新幹線が到着するたびにランナーが次々に降りてきて、行列に。
その先に歩を進めると、大会EXPOが開催されている。EXPOとは、レース前に開催される“大会の拠点・中心となるイベント”。選手登録受付、ゼッケン受け取り、レースキットの配布、スポンサー展示、さらに物販やランナー同士の交流の場となるエリア。
協賛ブランドやメーカーによるブースがいくつも設置され、レース前の買い足し、またギアやシューズ、補給食、サプリなど、レアな商品を試したり、海外ランナー・プロ選手・ブランドとの接点、メーカーから直に最新情報を入手できる貴重な機会だ。

HOKAのブースはひときわ立派な作り。場所柄もあって、右手の入口には足湯があり、出走前から癒されているランナーも。
中でも、大きなブースだったのがHOKA。トレイルシューズ《SPEEDGOAT 7》の試し履き、足湯など、今後のトレイルランニングへのモチベーションと、レース後のリカバリーへの意識も高まりそうなコンテンツが用意されていた。

スタートはいつも壮観な眺め。装備やテーピングにそれぞれの個性が出る。
20km、50km、100kmの距離が選べるレース。
加賀スパトレイル(Kaga Spa Trail Endurance 100 by UTMB)のコースは、標高500〜1,400mの里山をつなぐ山岳ルート。100kmでは累積標高6,000m超のアップダウンが続く。ブナ林のシングルトラック、稜線の絶景、渓流沿いのトレイル、林道が連続し、走れる区間と急登・急下りが交互に現れるのが特徴。日本の自然と温泉文化を同時に味わえる点が魅力で、終盤は温泉街へと下り、苔むす遊歩道と川床を横目にゴールへと向かう、趣のあるコースだ。
レースは3種類。それぞれ異なる日時にスタートする。初日は朝10時に20kmが開催され、夕方18時に100km、翌日の早朝5時に50kmが始まる。レース中の選手の動向を追うのに、役立つのがUTMBの公式サイト。リアルタイムで、地形とタイム、選手の分布、ゼッケン番号を検索すれば、特定の選手追い続けることも可能だ。DNFになった人数、ゴールした瞬間まで把握できる。

スタート直後。写真に写っているのは、100kmにエントリーしたランナーの一部。スタートしたら、ゴールは翌日の朝〜昼という過酷なレースだ。
UTMBとは
UTMBシリーズのレースには、レースを完走することによって贈与されるUTMB IndexとRunning Stonesがある。上位レースに出るには「ランク・実績・ポイント」が必要になってくるのだ。一般ランナーにおいては、UTMBには主に2種類の出走権獲得の仕組みがある。
1つ目はUTMB Index。過去のレース結果から算出される実力スコアで、20km・50km・100km・100milleの距離別にランナーの走力を数値化し、参加資格の基準として使われる。
2つ目はRunning Stones。UTMB系レース完走で得られる抽選用のポイントで、長距離を走るほど多く獲得でき、UTMB本戦のエントリー抽選で当選確率を上げる役割を持つ。
つまり、シャモニーで行われるUTMB Mont-Blancに出場するには、一般ランナーはまず距離別のUTMB Indexで参加資格となる実力証明を満たし、そのうえでRunning Stonesを獲得して抽選に参加する必要がある。Stonesは完走レースで得られ、数が多いほど当選確率が上がるという仕組み。
プロのエリートランナーにおいては優勝と上位入賞に、来シーズンのUTMB Mont-Blancの出走権がかかっている。彼らはUTMBワールドシリーズの中でも特別枠で扱われ、一般ランナーのようなRunning Stonesによる抽選は不要。世界ランキング上位や主要レースの成績によって直接出場権が付与される。スポンサー契約選手やトッププロはチーム推薦でエントリーし、スタートも最前列のエリートブロックから出走できる。
シャモニーの本戦の様子は、9月頃、Tarzanwebでも引き続きレポートするのでお楽しみに。
エリートランナーたちの白熱したデッドヒート。

明け方まで雨が降ったりやんだりを繰り返す、ハードなレースコンデジション。

レース終盤まで、せり続けた2選手。ともに喜びと安堵の表情を見せた、ゴールの瞬間。

リカルド・モンターニ選手はレース中における禁止区間でのトレッキングポールの使用が発覚し、のちに失格となった。
加賀スパトレイルでの注目レースとなったのは、本大会の目玉ともいえる100kmの優勝争い。川崎雄也選手(ゴールドウィン)とイタリアのリカルド・モンターニ選手(ヴィヴラム)、2人がスタート地点から並ぶ状況で序盤から先頭集団で主導権を握り、中盤の登りで抜け出して単独走へ移行。そのままテクニカルな雨の山岳区間でも安定してペースで夜通し走り続けた。同時にエイドに現れた両選手の無駄のない補給の動きは見どころだ。公式Instagramに比較動画が上がっているので、是非チェックしてみてほしい。エイドを出発してからは、川崎選手が少しずつペースを上げリードをしていき、後続となったリカルド・モンターニ選手と約17分の差を広げて初優勝を達成した。2人に続いて2分後に三浦裕一選手(HOKA)がフィニッシュした。
《SPEEDGOAT》がトレイルレースで選ばれる理由。
見事に2位入賞を果たした三浦裕一選手。ゴール後は、かなり体力を消耗していたはずにも関わらず、清々しさのある笑顔を見せていた。今回のレースをこう振り返る。

ゴールテープを掲げた三浦選手。フィニッシュ地点に姿を見せたとき、歓声が上がり、拍手がおこった。
「今の自分としては、ベストは尽くせたレースだったと思っています。優勝を狙うには苦しいレース展開になると、当初から感じていました。それに、北ダムのエイドに入る直前に転倒してしまって。左肩が外れてしまったのですが、一度はめ直し、次のダムのエイドでチェックを受けたあとにまた外れてしまいました。レース中に2回脱臼してしまったので、痛みとの戦いがあり大変なレースでした。去年とほぼ同じコースでしたが、天候など、コンディションはまったく違いましたね。昨年はスタート直後からとにかく暑くて、いかに体力を抑えながら走るかがポイントでした。一方、今回は雨予報だったので涼しくなるかと思っていましたが、実際はずっと蒸し暑く、昨年とはまた違う難しさがあるレースだったと感じました」
そんな厳しいレースコンディションだった道中を共にした《SPEEDGOAT 7》についても感想を語ってくれた。

三浦選手が着用したのは、《SPEEDGOAT 7》のベイ リーフ / シー グラスというカラー。
「実際に履いて走って感じたことは、前作との違いがとても分かりやすかったことです。《SPEEDGOAT 6》はグリップ力が非常に高い一方で、やや硬めのソールの履き心地でした。《SPEEDGOAT 5》の柔らかいクッション性を好んでいた方の中には、《6は少し硬くて合わなかった》という声も、僕の周りではよく聞いていました。一方、今回の《SPEEDGOAT 7》は、5のような心地よいクッション性に少し近づいた印象があります。ただ、単に柔らかくなっただけではなく、ミッドソールの反発性もしっかり感じられるので、衝撃を吸収しながらロード区間でもスムーズにスピードへ乗せやすいと感じました。アウトソールの形状は前作から変更されていますが、グリップ力はこれまで同様に高く、安心して走ることができます。初心者はもちろん、レースで上位を狙うようなランナーまで幅広く対応できる一足で、実際に今回のレースでも上位選手が履いている姿を多く見かけました。オールラウンドに活躍する完成度の高いシューズだと思います」

山中温泉の伝統芸能館「山中座」で行われた表彰式の様子。
極限状況で、激しく変化する山の自然環境に対峙しながら、いかに走り抜けるのか。改めてトレイルランニングは、体力だけではなく、その瞬間瞬間の自己のフィジカルとメンタルに向き合い、ゴールまでエネルギーを絶やさずにいる知性や自制心も必要だと教えてくれる。
昨年度、シャモニーでのUTMB本戦の権利を得た、HOKAチームの選手については、9月以降の『Tarzan Web』でそのレースの様子を含めレポートするのでお楽しみに!
HOKA創業メンバーのNicolas Mermoudが語る、UTMB、加賀スパトレイルのいまとこれから。

UTMBは、世界約30〜45ヶ国、100を超える地域でレースを展開する巨大な世界シリーズだ。加賀温泉が誘致されたのは2025年のこと。開催地は3年間の期限付きで、大会開催する。加熱するトレイルランニング人気の中で、絶大な経済効果を見込めるものの、大会の運営には地元住民の理解やボランティアによる支援が欠かせない。今回、来日し、自らも20kmレースを楽しんだHOKA創業メンバーのNicolas Mermoudに、世界中のトレイルランナーから熱い注目を集めるUTMBシリーズについて話を聞いた。
「トレイルランニングについては、HOKAというブランドのルーツは、必ずしもトレイルだけではなく、スキーやランニングなど複数のアウトドアアクティビティを通じて人々のライフスタイル全体を豊かにするという思想にあります。山や自然の中で過ごす時間や仲間との体験そのものを表現することが重視され、その結果として現在は幅広いライフスタイルブランドへと発展しています。世界のトレイルランニングシーンについては、20年前からアメリカやフランス、スペインでは文化として定着しており、日本もこの20年で大きく成長し、日本人選手が世界のトップレベルで活躍するなどポジティブな流れが続いています。また、UTMBクラスの大会を開催するためには、世界中のランナーが『一度は行ってみたい』と思うような土地であることが重要。日本においては、例えば富士山のような象徴的な山や北海道のような広大で魅力的な自然環境には大きな可能性があると考えられます。トレイルランニングの未来については、参加者の増幅や関心の拡大もあり、非常にポジティブだと思っています。自然とのつながりやコミュニティの価値を失わないことが重要なのではないでしょうか」
世界中のトレイルランナーを魅了し、まさに人生を変える体験となるレース。来シーズンのレースへのエントリーに向けて準備を始めてみては。
Information
加賀スパトレイル 2027(Kaga Spa Trail Endurance 100 by UTMB)
開催時期:2027年6月中旬予定
場所:石川県・加賀温泉郷エリア

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