労わるつもりのサプリで逆効果も!? 肝臓の機能低下で起こる怖いこと

栄養の代謝や有機物質の解毒など実に500以上の仕事をこなす肝臓は休むことなく稼働し続けている勤勉な働き者。しかし、担う仕事が多い分、機能低下によるQOLの低下は凄まじい。脳機能への影響、ウイルス性の肝障害、薬剤性肝障害、移植後の苦労など、本当にある肝臓の怖い話をお届け。

取材・文/大吹雪ジュン 編集/阿部優子

初出『Tarzan』No.870・2023年12月14日発売

教えてくれた人:泉並木先生

いずみ・なみき/武蔵野赤十字病院院長。東京医科歯科大学医学部臨床教授、近畿大学医学部客員教授も兼任。最新の遺伝子診断を取り入れた肝臓病治療に取り組み、大きな成果を挙げている。

簡単な計算間違いは肝性脳症の兆候かも

肝障害の合併症に肝性脳症という症状がある。これは無数にできた再生結節によって肝臓の解毒機能が低下し、老廃物が脳に達してさまざまな障害を発生させるというもの。

主な原因物質と考えられているのが、食物中のタンパク質を材料にして大腸菌が作り出すアンモニア。アンモニアは通常、肝臓で分解処理されるが、肝機能低下で未処理のまま脳に達してしまうのだ。

最初は昼夜逆転や抑うつ状態などが見られるが、この時点では気づかないことがほとんど。放置すると最後は深い昏睡状態に陥る。

「以前は肝硬変の合併症といわれていましたが、現在ではもっと早く症状が表れると考えられています。車の運転中、信号に対する反応が遅くなったり、100から7を順番に引いていくなど簡単な計算能力の低下が見られたら要注意です」

肝性脳症の昏睡度による分類
  1. 昼夜逆転。だらしない態度。抑うつ状態。
  2. 物の取り違え。時間や場所の感覚が薄れる。
  3. 興奮状態。反抗的態度。あるいはほとんど眠っている。
  4. 昏睡。
  5. 深い昏睡。

サプリ服用で肝臓が炎症を起こす?

薬の分解処理もまた肝臓の仕事のひとつ。その薬によって肝細胞が破壊されたり胆汁が停滞するなど、肝障害が引き起こされることもある。

薬剤性肝障害のほとんどはアレルギー性。薬物に対するカラダの防衛反応によって起こる肝臓障害ですべての人に起こるわけではない。ただ、どの薬剤によっていつ何時発生するかは予測不能。

「一番心配なのは医師から処方された薬ではなくサプリメントです。主成分以外にさまざまな成分が含まれているので、どれに対してアレルギーを起こすのかが分かりません。新しいサプリを飲み始めて2週間くらいしたら肝機能をチェックした方がいいでしょう」

肝臓をいたわるつもりで飲む前に飲むサプリメントも場合によっては逆効果となる可能性もある。導入すると同時に血液検査の数値をこまめにチェック。

急激に広範囲に肝細胞が破壊される肝炎

近年、減ってはきているものの肝炎ウイルスによって引き起こされる急性の肝障害についても触れておこう。

原因ウイルスはA、B、C、D、E型の5種。ただし、D型による急性肝炎は日本人にはほとんど見られず、最も多いのはB型ウイルス由来。初期症状は発熱や頭痛、だるさや食欲不振なので単なる風邪と間違われやすい。やがて黄疸や色の濃い尿、血液検査で異常値が出て、この段階で急性肝炎と診断されることが多い。

ほとんどの場合は入院治療によって回復するが、稀に重症化して劇症肝炎に進行する。劇症肝炎はあっという間に、しかも広範囲に肝細胞の壊死が起こり、肝性脳症なども伴う恐ろしい病態。最初の症状が見られてから10日ほどで急速に悪化し、死に至ることも。

肝移植後には免疫との闘いが待っている

悪い生活習慣から脂肪肝に陥り、さらに進行して遂にはもう後戻りできない肝硬変へ。こうなれば最後の頼みの綱として肝臓移植という選択もある。とはいえ、世の中そんなに甘くない。

「脳死状態のドナーは非常に数が少ないので、移植先としては先天性の若い肝臓病の患者が優先されます。となると残るは肉親などの肝臓の一部を移植する生体肝移植の可能性があり、この場合の定着率は約8割といわれています」

肝臓の一部を移植して健康を取り戻すことができるのは、肝臓が本来持っている驚異的な再生能力のおかげ。でも、めでたしめでたし、と喜んでばかりもいられない。

「移植後は拒絶反応を抑えるための免疫抑制剤を一生飲み続ける必要があります。さらに必要な免疫反応も抑制されるので感染症のリスクが高くなることも、また事実です」