数々の名場面に立ち会ってきた
2022年8月2日、ヤクルト×中日戦でヤクルト・村上宗隆選手が2試合跨ぎの5打席連続本塁打というプロ野球新記録を打ち立てた。「村神様」の異名を取り、日本史上最年少22歳でのシーズン40本塁打到達(8月23日現在45本)と今後さらなる飛躍が期待されるスーパースターの大記録。
そして、その瞬間を伝えたラジオアナウンサーの一人に「80歳のプロ野球実況アナ」こと宮田統樹さんがいたことも同時に話題になった。
「あの日は以前から決まっていた東海地区向けの中継担当でした。前の試合で村上選手が3打席連続で打ったのを知って“すごい時に実況が回ってくるなあ”と思っていたのですが、まさか5打席連続ホームランとは。驚きました」
東京五輪が開催された1964年にニッポン放送に入社した宮田さんは、野球実況一筋で今年59年目。今なお年間十数試合を実況し、前後の試合ではベンチリポーターもこなす。80歳にして野球中継の第一線で活躍するのは国内では過去に例がない。
「1977年、王貞治さんが当時のホームラン世界新記録756号を達成した頃は“自分が喋る日にその瞬間が巡ってこないものか”と願ったものですが、今はそこまでの欲はありません。
でも不思議とそんな時に巡ってくるんですねえ(笑)。僕は昨年も阪神・佐藤輝明選手の新人記録となる1試合3本塁打を実況していますけど、そんなすごい場面に立ち会えてアナウンサー冥利に尽きますよ」
金田400勝達成の瞬間を急遽生中継で実況
実は宮田さんは、遡ること53年前の1969年10月10日、巨人・金田正一投手の通算400勝達成という前人未到の記録達成の瞬間にも立ち会っている。当時入社6年目。泊まり勤務の最中に急遽実況を担当することになった。
「10月は消化試合の時期。ラジオ局はオフシーズン編成でどの局もナイター中継がありません。夜8時頃、僕が局にいると上司から“いま金田が投げてるぞ。勝てば400勝だから宮田ちょっと喋ってこい!”と突然言われ、後楽園球場まで急いで向かったんです」
中継スタッフもいないなか機材を一人でセットし、何とか局と繫いでその瞬間を中継したという。
「結果的に、金田さんの400勝をラジオ中継できたのはニッポン放送だけでした。だから僕の実況がアーカイブで残って注目されますけど、当時はまだまだ未熟でしたからお恥ずかしい限りですよ」
筆者は30~40年前から宮田さんの声を聴いているが、当時から声色が変わっていないのに驚かされる。それはひとえに節制あってこそ。昔からお酒は飲まず、今は筋トレを日課にしている。
「週2~3回ジムで筋トレや水泳をして体力維持に努めています。最近はマシンも高負荷で少ない回数をこなしたりと、いろいろ試していますよ。あとは発声練習。アナウンサーの基本である“あえいうえおあお”は毎日やらないとやはり不安になっちゃいますね」
11月に81歳を迎える宮田さん。その明朗な喋りを少しでも長く聴けることを期待するばかりだ。
「数々の名場面に立ち会えて嬉しい限りですよ」