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6日で2度のエベレスト登頂を成し遂げたトレイルランナー ・キリアン・ジョルネ。彼のレースや山行の記録が綴られた『雲の上へ』を紹介する。
キリアン・ジョルネ 著 (株)エイアンドエフ刊
2009年NHKの特番『激走モンブラン』で全国に知られるようになったUTMB。そのときの優勝がこのキリアン、まだ大学生だった。その頃からのレース、友、山行が綴られ、そして最後にすごいことになる。訳者/岩崎晋也。2,530円。
「登山とはただ命を危険にさらして頂に到達し、そのあと降りてくるというだけのことだ。どう考えても英雄的行為とはみなせない。これはただの愚行だ」
そう言ってキリアン・ジョルネは世界の屋根のいくつかを誰よりも速く駆け上がっていく。そうか、愚行なのか。
この本の帯には6日間で2度のエベレスト登頂をなし遂げた、とある。けれど正確にはその5日前に8400mまで駆け上がっている。あまりに調子がいいから残り400mを(つまり山頂だ)どうしよう? とためらい、だけど計画に従って下山する。
だから正しくは2週間のうちに8800m(世界にこれ以上高いところはない)の地点に2回、8400mに1回上がっている。世界最強にして最高の愚か者だ。
本書のほとんどのページはキリアンがいかにしてキリアンになったのかを楽しく解説してくれる。UTMBもハードロックも出てくる、グランド・ジョラスのてっぺんでウンコしちゃう話も出てくる。まずはそれをお楽しみいただこう。ふーん、へえ、と読み進み、最大の快挙というか愚行は最後の最後にやってくる。
5月21日いよいよ登頂。胃腸炎(下痢っぱら)を抱えたまま世界最高地点に上ったヤツはいないと思う、100m下ったところでついに我慢できずパンツを下げた、あーキリアンよ。
こんな登頂は我慢できない。認めたくない、自分が許せない。8400mまで上がったときの絶好調はどこへ? 5月27日、キリアンはもう1回上がるのだ、それが世界一の愚行になるとも知らず。
文/内坂庸夫
初出『Tarzan』No.820・2021年10月7日発売