元モーグル選手から8代目店主に。創業191年の蕎麦店《松竹庵 ます川》

取材・文/黒田創 撮影/山本嵩

初出『Tarzan』No.815・2021年7月21日発売

旬の素材の天婦羅と蕎麦。

天然の鮎、茄子など旬の食材に刷毛で丁寧に衣をつけ、サクッと揚げた天婦羅。それを堪能したら石臼挽きの香り高い十割蕎麦で締める。贅沢なコースをランチでも味わえるのが東京・神田の《松竹庵 ます川》だ。

天保元年創業と長い歴史を持つ老舗で迎えてくれたのは、かつてモーグル競技で活躍し、2003アジア冬季大会では金メダルに輝いた経験を持つ店主の益川雄さん。

益川さんはアスリートである一方、代々続く蕎麦店の8代目という顔もあった。

この元選手の店
益川雄(ますかわ・ゆう)
益川雄(ますかわ・ゆう)/1984年生まれ。元モーグル選手。現役時代は全日本ナショナルチームに所属して2003年アジア冬季大会で優勝。世界選手権やワールドカップでも活躍し、09年に引退。

「だからいずれは継ぐつもりでしたが、当時は五輪出場という夢があった。でもトリノ五輪の代表入りを逃し、次のバンクーバーは是が非でも出たいと必死でした。そんな折の2008年、先代の父が病に倒れ店を一旦閉めたんです。それで次の五輪に出られなかったら潔く辞めようと」

腰痛にも苦しみ2009年に引退した益川さんは料理学校で学び、和食店で修業。12年にお店を復活させた。

松竹庵 ます川
「親父の代は丼物も出す大衆店でしたが、僕の代になって蕎麦と天婦羅を楽しめる店に変えました。蕎麦はその時々で一番おいしい蕎麦粉を使った手打ちの十割。天婦羅も毎朝市場に出向いて旬の魚や野菜を自分の目で見て選んでいます」(益川さん)。そんな手の込んだ天婦羅と蕎麦が味わえるランチコースは2,800円。

「競技に区切りをつけたつもりでも、大きく生活が変わったことで最初はやはり戸惑いがありました。でもお客さんに喜んでいただけるよう日々考え、料理に没頭するうちに、ここが次の僕なりのW杯や五輪のステージだと思えるようになったんです」

INFORMATION
松竹庵 ます川

松竹庵 ます川

住所:東京都千代田区神田淡路町2-6

TEL: 03-3251-1044(コースのみ予約可)

営業時間:11:30~14:30、17:30~21:00(L.O.20:00)土日休。

老舗が軒を連ねる神田界隈の人気蕎麦店。