『R-1』の決勝に進めなかった「筋肉芸」。ニューヨーク・嶋佐和也の“微妙な肉体”
ひとり芸No.1決定戦『R-1グランプリ』。この華の舞台に挑むも、儚くも準々決勝で敗れた一人の芸人がいる。彼の名は嶋佐和也。
ニューヨークのボケ担当としておなじみの嶋佐さんが“SHIMASA”と名乗り準々決勝で披露したのは、まさかの筋肉芸だったという。これは『ターザン』としては見過ごせない! その真相を探るべく、SHIMASAさんを訪ねた。
取材・文/門上奈央 撮影/山城健朗
「もう二度とやらないと思う」
「ピンネタは今回がほぼ初めてでした」と遠い目をする嶋佐さん、いやSHIMASAさん。
「いい経験ができましたよ。『ルミネ the よしもと』でピンネタをできるなんて。…でも、ピンネタはもう二度とやらないと思います。YouTubeの『ニューヨーク Official Channel』で、ですか? その予定も僕の中ではないですねぇ」
そんなの惜しすぎる! ムリを承知で『R-1』に挑んだ“筋肉芸を見せてほしい”と懇願すると
「小道具がないので完全再現はできないんですけど、それでも問題ないですか?」と、身につけていた洋服を脱ぎ始める。SHIMASAさんのラスト筋肉芸(?)をまずは目に焼き付けてほしい。
「NSC養成所以来のピンネタでした」
秘蔵の筋肉芸を特別に披露してくれたSHIMASAさん。では、これから『R-1』について思いの丈語っていただこう。
——あれ、そのお洋服はSHIMASAさんの私服ですか?
いいえ違います! 実はさっきのネタの後半に、「服を着替えてもう一回漫談させてください」と断って“コロッケさんの私服風の洋服”を着て登場するんです。そのひとボケのために渋谷じゅうを走り回って揃えた衣装です。
総額約3万円! このコートなんて2万円もしました。〈109メンズ館〉を全店舗巡って「一番、コロッケさんっぽい」と思ったのがコレでした。このネックレスは〈MEGAドン・キホーテ〉で。
コロッケさんのお好きな「クロムハーツ」っぽくないですか? 結局、この格好をしたのは準々決勝の一度きりでした。この衣装に袖を通すのは今回の撮影が最後ですかね。
——また切ないことを…。そもそもR-1に出場した経緯は?
去年の『M-1』前のタイミングで、単独ライブでも普段お世話になっている放送作家の方に「R-1出た方がいいんちゃう?」と急に言われまして。マジか〜と思いつつ、いったんR-1に出るかどうかの判断は保留して、M-1のことだけを考えることに。
で、M-1を終えた時に、またもやその方に「R-1、出たら?」と言われたんですよね。その時点でエントリーの締め切りが5日後に迫っていたのでとりあえずエントリーだけ済ませて。
…エントリーをした手前、出るしかない。時間が全く無いなかでネタをイチから考え始めました。
——嶋佐さん=ニューヨークというイメージが強くて、ピン芸に挑まれたこと自体、意外でした。
実はNSC養成所の在学中に一回だけR-1に出ましたが、今回はその時以来でした。コンビの漫才やコントと違って、一人だとフリップネタ、コント、リズムネタ…何をやってもいい。
制約が無さすぎて「本当にどーしよう?」と迷い、バイク川崎バイクさんやおいでやす小田さん、ゆりやん(レトリィバァ)たちに相談しました。その結果、コンビでできることをしても意味がないから、今までやったことがないタイプの芸をしようと考え、“裸芸”に行き着いたんです。
「中途半端な“微妙なカラダ」
——最近筋トレに励む芸人さんが多いですが、その影響は?
それは特になかったです。ネタを練っている時に「自分の体型を利用できたら面白そうだな」とふと思いまして。全然マッチョじゃないですが、ダルダルというわけでもない。正直、中途半端な“微妙なカラダ”してませんか? それをネタにできないか、と。
だから自分の中では筋肉芸という表現よりは、裸芸という方がしっくりくるんですよね。今思えば、準々決勝の段階でパンイチなのはすでに最年長の俺だけでした。
ほかの挑戦者はみんなちゃんと服を着て、ちゃんと喋くりしてました…。決勝メンバーももちろん、裸芸は誰一人いない。俺より下の世代の芸人は、もうネタで裸にはならないかもしれませんね…。
——R-1の参加資格に変更があり、今までは芸歴不問でしたが、今年から芸歴10年以内に。SHIMASAさんはまさしくラストイヤー組の一人でした。
そうですよ。ヘンな話、周りから「(可能性)あるんじゃないの?」と言われることも。僕にとってはラストイヤーでしょう。それに、僕たちコンビも長年賞レースに出る中でさんざん苦しめられてきた“勢い枠”的なところで「SHIMASA、通るんじゃない?」…正直そんな下心も持ち合わせながら挑みましたが、しっっっかりと、準々決勝で落とされましたね。
「いや、なんでガチで審査してんだよ?」と!!
——…準決勝に進んでいれば“敗者復活者”枠での決勝出場もありえました。
言うまでもなく、決勝まで残る人は全員面白いので、さすがにそこは甘く見てませんよ。ただ準々決勝敗退なんて、あまりに中途半端で…!
これまた、勝手に決められていた出場順も良くない! 僕がまさかの大トリだったんですけど、その前が吉住とZAZY。二人とも決勝まで残りましたよ。SHIMASAだけしっかり落ちてる! …すみません、恨み節で(笑)。
——SHIMASAさんの悔しさがひしひしと伝わります…。
ただ、今回はお客さんがすごく温かくて、結構笑ってもらえたのは本当に良かった。あと、二回戦の時点でフジテレビ『ノンストップ!』の密着取材がつくという、想定外の出来事が起きまして!
ラストイヤーだったので、“R-1二回戦最後の挑戦”とのタイトルで、新聞のラテ欄には“ニューヨーク嶋佐に密着”とありました。お昼の情報番組に取り上げてもらえるなんて、嬉しいしびっくりですよ。だからこそ、応援してくださった方には本当に申し訳なくて…!
それに準々決勝まで進むと、人間、だんだん欲が出てくるもの。「マジで決勝に行きたいな」という気持ちになったところで、僕のR-1は終わりました。
「マッチョの気持ちはすごく分かる」
——皮肉を利かせつつも的を射た人物描写こそニューヨークのネタの持ち味だと思うのですが、トレーニーに対して抱く印象をぜひ聞いてみたいです…。
めちゃめちゃマッチョでメシまで徹底している人は異常というか、強迫観念に駆られているのか?と聞きたくなる。でもそういう、どんどん衝動に駆られる気持ち、実は僕も分かるんですよ。
大学生になったばかりの頃は毎日ヒマすぎて、プロテインを飲んだり家で筋トレをしまくっていたら、体重が5kgくらい増えて、見た目が明らかに変わったんです。その時の喜びは覚えてるし、当時の肉体を今も保ちたいという気持ちがなんとなくある。
一度鍛えてカラダが変わると、そういう思考になるんですよね。
——SHIMASAさん、意外にも“マッチョ肯定派”なんですね!
やっぱりカッケーなと思いますよ。昔から格闘技やプロレスが好きで、自分自身も10代は空手に打ち込み、最近までキックボクシングジムに通っていました。
男は、マッチョを見たら「スゲー!!」と素直に感動する人がほとんどじゃないかな。そもそもマッチョというだけでなんか面白いですよね。僕も本当はもっとマッチョになりたいですよ。最近は怠けてますけど。
——とは言え、先ほどの筋肉芸では漫談を楽しみつつも、引き締まったシルエットにも見入ってしまいました。
ホントですか? 普段から体型はちょっと気をつけたいというか、ダラっとしたカラダになりたくないと思ってはいるんですよ。幸い、僕は筋肉がつきやすいうえに、ちょっと休んでも筋肉がそんなに落ちない方。
でも最近は毎日かなり忙しいので(マネージャーを見ながらニタリとするSHIMASAさん)。たまに腕立て伏せを30回を3セットほどしたら終わりにしちゃってます。
ある程度胸の厚みがあるとパッと見た時に“鍛えてる感”が出ますし、腕立て伏せなら上半身を満遍なく鍛えられるんで、とりあえず腕立て伏せ。今始めようかなと思ってるのは有酸素運動です。汗をもっと日常的にかきたいし、体力をつけたくて。
——芸人さんのお仕事は体力勝負という面もありそうです。
先日、単独ライブでSMAPさんの『SHAKE』の1〜2番をめちゃくちゃ簡単な振り付けで踊ったんですが、それだけでゼイゼイ言っちゃって。「ロンハースポーツテスト2021」に出た時も、出演者の中では僕らは若手枠だったのに、成績が年長の人より劣っている部分も結構あって、もっと鍛えた方がいいなーと感じました。
すぐに眠くなっちゃいますしね。体力をつけたら頭の回転ももっと早くなるかもしれませんし(笑)。
——SHIMASAさんが理想とするカラダは?
長瀬智也さん(即答)。主演を務める『俺の家の話』で長瀬くんはプロレスラー役を演じてますけど、本当にベストな体型だなあと思って。
今、日本人の中で一番かっこいいと思いませんか? 僕、ヒトの中で長瀬くんが一番好きなんです。運動、頑張らないとなあ。