夏に快いターザン選書:女優・佐久間由衣が選ぶ“クール”な4冊
取材・文/鍵和田啓介 撮影/鈴木大貴 スタイリスト/湯浅美知子 ヘア&メイク/中山友惠
(初出『Tarzan』No.770・2019年8月8日発売)
目次
『風の歌を聴け』は、人間関係の機微の描き方がクールなんです。
涼しさを感じられる読書ってなんだろう?って考えたときに、2つの方向が考えられるなと思ったんです。ひとつは爽やかな読書で、もうひとつは背すじが凍る読書。
まず爽やかな読書を考えた時、村上春樹さんの『風の歌を聴け』が最初に思い浮かびました。ある青年のひと夏の物語で、何が起こるというわけではないのですが、ファンタジー要素が強く、抽象的な表現が多くて、人間関係の機微の描き方がクールなんです。そういう意味で、涼しげだなって思いました。
『半分の月がのぼる空』は、主人公たちの恋愛模様がとても爽やか。
もっとわかりやすく爽やかな物語を挙げさせてもらうと、『半分の月がのぼる空』。映画版が好きで原作を読みました。
主人公たちの恋愛模様がとても爽やか。高校生の主人公の男の子が入院している病院で、同じ歳の不治の病を患った女の子と出会うというところから物語が始まるんですね。
二人はいろんな障害をひとつひとつ乗り越えながら距離を縮めていくんですが、二人の健気さ、純粋さ、真っ直ぐさが、繊細に描かれていて染みました。
ピンクの空の写真が表紙って時点で最高です。
これは「見てください!」って感じですが、奥山由之さんの写真集『BACON ICE CREAM』も爽やか。
私はピンクの空が好きで、小さい頃、夏の朝は毎日5時に起きて、地元近くの海岸に空を見に行っていたんです。その夏の記憶を刺激するようなピンクの空の写真が表紙って時点で最高です。
奥山さんにはお仕事で何度かご一緒させてもらったことがあって、ただただ楽しそうにシャッターを切っていた姿が印象に残っています。好奇心の塊のような写真が美しいです。
最後のページをめくった瞬間にぞーっとすると思います。
一方、背すじが凍る系で言うと、道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』です。私は道尾さんの小説が大好きなんです。普段、ミステリーは読まないのですが、道尾さんの作品は最後まで何が起こっているのかわからないから別格。
『向日葵の咲かない夏』は、主人公のミチオが、クラスメイトでいじめられっ子のS君の家に宿題を届けに行くところから始まります。
ネタバレになるので詳しくは言えませんが、ラストでそれまで信じていたものがすべて裏切られ、最後のページをめくった瞬間にぞーっとすると思います。タイトルからわかるとおり舞台は夏ですし、これからの季節に読むのにぴったりだと思います。
PROFILE
佐久間由衣(さくま・ゆい)/女優。1995年、神奈川県生まれ。『あの日のオルガン』『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』などに出演。ドラマ『時空探偵おゆう 大江戸科学捜査』が関西テレビ系で放映中。主演の『〝隠れビッチ〟やってました。』は今冬公開予定。