計測できないものは改善できないから。「睡眠デバイス」3つのメリット
なんだか起き抜けがすっきりしない…、日中に眠くなる…。睡眠に悩みを感じる人は少なくないが、自分自身では客観視や分析をすることが難しい。そんなときに頼ってみたいのが近年ぐっと身近になった「睡眠デバイス」。活用するとどんなメリットがあるのか、睡眠に悩みを抱く人を多数指導してきた、角谷リョウさんに伺った。
取材・文/廣松正浩 イラストレーション/細山田曜 編集/阿部優子
初出『Tarzan』No.864・2023年9月7日発売
角谷リョウさん
お話を伺った人
すみや・りょう/上級睡眠健康指導士。日本睡眠学会会員。LIFREE株式会社共同創業者。クライアント企業160社以上、累計8万人以上の睡眠改善をサポート。著書『働くあなたの快眠地図』(フォレスト出版)など。
目次
睡眠デバイスとは? 何を測定し、何がわかる?
7~8時間も眠っていないけれど、日中眠くならないから、自分の睡眠はこれでいいのでは? あるいは、たっぷり眠っているのに眠気が取れないのは、睡眠の質がよくない?
眠りに不安を抱える人は多い。けれど、眠ってしまえば自分のことはわからなくなる。こんな睡眠で大丈夫なのか、そんな悩みに光を当てる製品が増えつつある。スマホ、スマートウォッチの人気に続き、いま注目を集めているのがスマートバンド、スマートリングなどの新顔だ。
スマートバンドはスマートウォッチよりも本体が小ぶり。なかにはディスプレイのないものもあり、時計としての機能に縛られないため、バンドと呼ばれるようになった。スマートリングは言うまでもなく指輪型で、スマートバンドと同じく、小さな本体内に各種センサーが搭載されている。
「これらのデバイスのセンサーはユーザーの心拍数、心拍変動、カラダの動き、血中酸素飽和度、表面体温などを測定します」と語るのは、睡眠に悩みを抱く人を多数指導してきた角谷リョウさんだ。
これらのデータを各社独自のアルゴリズムで解析し、睡眠時間、睡眠の深さも割り出し、睡眠スコアとして採点、評価、アドバイスしてくれる機種も。また、いびきや無呼吸の有無も推定できる。
「ただし、睡眠の深さを正確に調べるには、脳波の測定のため医療施設への検査入院が必要です。ですが今や、妥当な価格で自宅で測定できるデバイスを貸し出すサービスもありますよ」
メリット① スコア化できるから睡眠を改善できる
体重と違い、睡眠はなぜよくなり、悪くなるのかを突き止めるのが非常に難しい。そもそもデバイスを使わなければ、人は入眠と起床の時刻さえ明確に把握することができない。
「日ごろ睡眠の質がよくない人でも、すっきり気持ちよく目覚める朝はあります。寝つきをよくするために就寝直前のスマホをやめたとしても、そのために目覚めがよくなったのかどうか。それを不明のままにしておくと、以前の生活様式に戻っていくだけです」
よい努力、工夫をしたときにデバイスの判定が高スコアで、よくなかったときに低スコアなら、初めて因果関係として認知される。
「だから計測は重要です。経済学者・ドラッカーが言うところの“計測できないものは改善できない”は睡眠にも当てはまります」
また、ある特定の1日を切り取って、そのときのスコアだけを注視するのではなく、中長期的に見ていい方向に向かいつつあるのか、そうでないのかをスコアで認識しておくことも重要だ。
「7日レポートとか、28日レポートといった機能で一覧させてくれる機種もあります。新しい工夫を始めると脳は興奮し、一時的にスコアの悪くなることもありますが、中長期的な傾向を把握できていれば、その工夫が自分に合ったものかどうか判断できるでしょう」
メリット② 日中の行動と紐付けができる
どんな判定やアドバイスを受けたとしても、眠ってしまえばそれに従うことなどできない。
「睡眠の質と量は日中の活動や就寝前のルーティンに左右されます。睡眠の改善を目標に何らかの努力、工夫をした結果、デバイスの判定スコアがよくなっても、日中の眠気が減って、仕事のパフォーマンスが上がったなどという実感を伴わないと、努力、工夫が続きにくいものです」
デバイスなしでは睡眠への評価と実感との相関性が遠すぎて見えない。この距離を近づけてくれるのも睡眠デバイスのいいところ。
「最終的には行動変容に結び付かないと睡眠の改善は実現できません。睡眠のスコア化はもちろん、努力と結果の紐付けが必須です」
また、いきなり大きな努力目標を設定しようとすると、失敗の確率が高くなる。これくらいならいいかというレベルながら、効果の期待できそうな改善を積み上げていこう。
「最近は具体的な助言をくれる機種も増えてきました。できそうな改善から試し、10個ぐらい新しい習慣を身につけると、禁煙や節酒のような実現の難しい改善も実行できるでしょう」
メリット③ あなたを知らない専門家より、デバイスの方がわかってくれる
もっと長時間眠った方がいいのはわかっているが、仕事に追われ、それどころではない人がいる。自分はショートスリーパーだと自己暗示にかかってしまい、仕事中毒の生活を顧みない人もいる。
「そんな人に眠るよう勧めても、“あなたに私の何がわかる!”と拒否される可能性があります」
ここで睡眠デバイスが、“あなたは○時間眠ったときの方がパフォーマンスは○%いいようですね”と、その人自身のデータに基づいた表現で提案した方が、素直に受け入れやすいだろう。
「そこがデバイスやAIのいいところです。使い込み、その人のデータを蓄積していくほど、的確なアドバイスを出せるようになっていく。24時間あなたを見守り、コンディションまで把握しているパートナーです。特にワーカホリックのビジネスパーソンには、燃え尽きるのを予防する安全装置としても機能するでしょう」