代表的な4疾患を解説。正しく恐れよ! 性感染症・入門
人類の歴史は感染症との闘いの歴史。性感染症も然り。グローバルな時代だからこそ感染拡大した新型コロナ同様、性感染症についても正しく学び、正しく予防したいもの。
取材・文/黒田創 イラストレーション/沼田光太郎 取材協力/尾上泰彦(プライベートケアクリニック東京 新宿院院長)
初出『Tarzan』No.816・2021年8月5日発売
目次
10人に1人は感染経験アリ
2020年来のコロナ禍で、否が応にも私たちは感染症に詳しくなった。ならばもう一歩進んで、性感染症についても知識をつけておきたい。
「性病とか普通に生活してたらあり得ないでしょ?」と考えているようならその認識は改めるべき。コロナのように飛沫感染こそしないものの、性行為をしている以上、人類と性感染症は切っても切れない間柄だ。
長年性感染症の治療および研究に携わり、最前線を知る〈プライベートケアクリニック東京〉尾上泰彦院長の言葉に耳を傾けよう。
男女ともに1位はクラミジア
性感染症にはSTD4と呼ばれる代表的な疾患がある。クラミジア、淋菌感染症(淋病)、性器ヘルペス、コンジローマの4つで、これらの疾患を確認した医療機関には国に報告する義務がある。
2019年の報告数を見ると男女ともクラミジアが1位。しかし報告数が全然違うし、2位は男性が淋病、女性が性器ヘルペスだ。
「これらの性感染症は男女で症状の出方に違いがあり、あくまで症状が出て病院で診断を下された患者さんの累計であるため、数字差が出るのです。無症状も含めれば実際の患者数はもっと多くなる可能性が高いと考えられます」(尾上先生)
「オーラルセックスだから平気」はあり得ない
性感染症はフェラチオやクンニリングス、アニリングス(肛門に口をつける)といったオーラルセックスでも容易に感染する。もしあなたが「風俗店に行ってもセックスをしなければ感染症の心配なし!」と考えているとしたら、それは大きな勘違いである。
「クラミジアや淋病などは咽頭、つまり喉にも感染しますが、喉は自覚症状が出にくいため、オーラルセックスによって口から他人の性器に菌がうつるケースがかなり多いです。
また、性器ヘルペスに感染している人とオーラルセックスを行ってヘルペスが口唇にできたり、口唇ヘルペスの患者とのオーラルセックスでヘルペスが性器にできることもよくあるケース。性器のみならず、口も立派な感染経路であると知っておきましょう」(尾上先生)
無症状の「物言わぬ性感染症」が一番怖い
「たとえば性器にクラミジア菌が感染しても、症状が出るのは男性で50%、女性で20~30%といわれています。無症状のまま不特定多数の人と性行為を行えばクラミジアの患者は増える一方。
性感染症の症状は辛いものが多いですが、ちゃんと症状が表れてくれた方が早期治療につながり、他人に広めてしまうリスクが減るためむしろラッキーなのです」(尾上先生)
男性が風俗店などで菌をもらい、自覚症状がないままパートナーとのセックスで感染させ、パートナーが症状に苦しむケースも少なくない。また、無症状のまま病気が進行することで精巣や子宮などに新たな病気を併発することもある。無症状だけど身に覚えがあるならば、クリニックで早期の性病チェックを。それがみんなを幸せにするのだ。
忘れ去られていた性感染症・梅毒が近年急増中
1940年代後半は22万人もの感染報告があり、不治の病と恐れられた梅毒。その後特効薬となるペニシリンの出現で報告数は激減し、すっかり過去の存在になっていたが、2011年以降報告数が急増。18年には東京都で1775人も報告され、特に若い女性の梅毒患者が急増中だ。
「これには明確なエビデンスは存在せず、インバウンドの急増との関係や、出会うはずのない人と会うマッチングアプリの影響を指摘する声があります。主な感染経路はコンドームなしのセックス。やはりコンドームは大事な予防策なのです」
近年は国内で新規のHIVおよびエイズ感染者の報告数の高止まり傾向が続いており、それも気になるところ。こちらは10年以上前に感染、時を経て発症するケースが多いという。
おかしいと思ったらまずは「STD4」を疑おう
① クラミジア
最もポピュラーな性感染症。自覚症状に乏しいので注意。
男性の症状:尿道に炎症が起こったり、排尿痛が生じるのが代表的。また性器の痒みや尿道からサラサラとした分泌液が出ることも。尿道に違和感を感じたら疑うべし。
女性の症状:ほぼ無症状だが、おりものの増加、不正出血、下腹部の痛み、排尿痛や性交痛などが見られた場合は要注意。放置すると子宮まわりの病気を併発する。
正式病名は性器クラミジア感染症。性感染症の中で最も感染報告数が多く、女性は男性の2倍以上。特に10代後半~20代の性活動が盛んな若者によく見られる疾患である。風俗店でのオーラルセックスで感染するケースも多く、オーラルセックスにより咽頭から菌が検出される場合も。
男性患者の約5割は無症状。発症した場合は尿道に炎症が起こり、軽い排尿痛が生じる。また性器の痒みや尿道からサラサラとした分泌液が出ることもある。こうした症状が出たら速攻で泌尿器科の受診を。
女性は男性よりもさらに無症状率が高く、およそ7~8割は気がつかないといわれる。とはいえそのまま放っておくと子宮頸管炎や子宮内膜症、卵管炎、骨盤腹膜炎といった子宮まわりの病気を発症する恐れがあるので、要注意である。
女性の代表的な症状としては、おりものの増加、不正出血、排尿痛や性交痛などが挙げられる。
② 性器ヘルペス
一度治ってもまた再発!? 少し厄介なヘルペスの一種。
男性の症状:陰茎の亀頭や包皮などに、痒みや違和感を伴う直径1~2mm程度の水ぶくれや赤いただれが複数でき、ペニスの痛みや発熱、リンパ節の腫れも併発する。
女性の症状:症状は男性と近く、外陰部や子宮頸部などに痒みや違和感を伴った直径1~2mm程度の水ぶくれ、赤いただれが複数発生。水ぶくれが破れると激痛に。
他のヘルペスにも言えるが、ウイルスが潜伏するため再発しがち。薬で治ったと思いきや、疲れやストレスで再びウイルスが暴れ出すことが多く、約8割が再発例。ただし再発時は、水ぶくれは少なく、痛みや痒みも比較的軽いケースがほとんど。
③ 淋菌感染症
男性は激しい痛みを併発! 膿も出るのでかなり辛い。
男性の症状:感染後数日経ってから、尿道よりドロッとした膿が出てくる。また激しい尿道炎に見舞われることも。このわかりやすさはメンタルに来る。早期受診を!
女性の症状:女性の発症率は20~30%と、クラミジアと同じく自覚症状に乏しい。黄色っぽいおりものが増えたり、下腹部の痛みや不正出血が起こったら注意を。
俗に言う淋病である。通常のセックス、オーラルセックス、アナルセックスなどで粘膜に直接感染し、特に男性は自覚症状がはっきりしている。
男性の場合、感染から2~7日後に尿道に違和感を感じ始め、尿道の入り口から黄白色のドロッとした膿が排出され、同時に排尿痛も起こる。膿はかなりインパクトがあり、大抵はここで病院直行パターンだが、やせ我慢して放置すると精巣上体炎という病気に罹ってしまう。
男性に比べると女性は比較的症状が少なく、出るとしたら黄色っぽいおりものの増量や下腹部痛、不正出血が代表的。これも気づかないまま進行すると、骨盤腹膜炎や不妊症、子宮外妊娠のリスクが高まる。
性器だけではなく咽頭に感染するケースも見られ、喉の痛みや腫れ、発熱といった風邪に近い症状が起こることも。身に覚えがあり、その後こうした症状や喉のイガイガを感じたら念のため受診しよう。
④ コンジローマ
性器に尖った形状のイボが。子宮がんの原因になる恐れも。
男性の症状:男性の場合亀頭の先やカリに乳頭状腫瘍(イボ)ができるのが特徴。また包皮の内外や陰囊、陰囊と肛門の間、尿道口、肛門まわりにできることも。
女性の症状:女性の場合外陰部や肛門、肛門内部、尿道口、また膣や子宮頸部に乳頭状腫瘍(イボ)が多発。初めはふくらみ程度だが、徐々に先端が尖った感じに変化する。
正式名称は尖圭コンジローマ。ヒトパピローマウイルス(HPV)が主な原因で、性器の周辺に尖った形のイボが出現するのが大きな特徴。痛みや痒みなどの自覚症状が出ないケースも多く、イボが小さかったり、見えづらい場所にあったりすると感染に気づかないことも多い。
イボを放置して増えたり大きくなったりすると、それに伴って痛みや痒み、出血などの症状が表れ、場合によっては悪性化する。性器まわりのイボに気づいたらすぐ受診することをおすすめする。
特に女性は外陰部にコンジローマができると、子宮がんなどの原因となる子宮頸部のヒトパピローマウイルスへの感染の可能性も高くなるので要注意だ。
数多くの種類があるHPVの中でも、主にHPV6型と11型がこの病気を引き起こすとされ、性行為の際、感染者のイボの中にあるHPVが相手の粘膜や皮膚に接触して侵入するケースがほとんどである。
他にも知りたい性感染症3つ
① 梅毒
近年報告数が急増し、東京都では2018年には1775人に上った。性行為を通じて皮膚や粘膜の小さな傷から原因菌であるトレポネーマが侵入するのが主な感染経路。トレポネーマはやがて血液を介して全身に広まり、性器や口唇にシコリが発生したり、それが潰瘍に発展したりする。
女性の場合、小陰唇や大陰唇に潰瘍ができても気づきにくいため、感染を広げる一因となる。放置すると脚の付け根のリンパ腺の腫れや手足の乾癬といった症状も。
以前は不治の病と恐れられたが、現代は治療法が確立しているため、仮に罹患しても治すことができる。
② マイコプラズマ感染症
正式名称はマイコプラズマ・ウレアプラズマ感染症。男性は尿道や喉、女性は膣や喉に感染し、男女とも性器の痒みや尿道、喉のイガイガや痛みが主な症状となる。発症部位も症状も淋病やクラミジアと似通っているため、それらの検査で陰性だと見過ごされる危険性がある。放置が続くとやがて炎症を起こし、不妊の原因ともなり得るので、症状が出たらしっかり検査してもらおう。
名称は似ていてもマイコプラズマ肺炎の原因菌とは別物で、感染経路は主に性行為。キスやオーラルセックスだけでも感染の可能性があるので注意したい。
③ ケジラミ症
吸血性昆虫で、少し茶色がかった白色のカラダを持つシラミの一種であるケジラミが、性行為での陰毛同士の接触や、同じタオルおよび布団などを使うことによって陰毛に感染する疾患。陰毛以外だと肛門周辺や、脇毛、胸毛、太腿の毛などに寄生することもある。
寄生したケジラミは肌から血を吸うため、陰部などに激しい痒みを感じるのが特徴で、前述の通りタオルや布団を介して同居家族に感染する恐れもあるため、自覚症状が出たらすぐに診察を。治療は寄生部位を専用のシャンプー等で洗い流し、殺虫するのが基本。