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毎日ちゃんと眠れているはずですけど?という人のための「カラダと脳に効く睡眠講座」

効き目のある睡眠とは? くすぶりくんの日常に、ヒントが見つかりました。

この記事の見出し

1. 眠りとは何か
2. なぜ眠るのか
3. 眠りの質とは
4. 眠りの量とは
5. 眠るテクニック
6. 眠気を払うテクニック

1. 眠りとは何か

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意識がなくなり反応も鈍くなる

良い睡眠を学ぶ前に、まず「眠りとは本質的にどんな状態なのか」を知っておきたい。お話を伺ったのは筑波大学教授で国際統合睡眠医科学研究機構の櫻井武さんである。

「医学的に見ると、睡眠は“外部からの刺激に対する反応が低下した状態”です。人間は起きている間は脳がフルで働き意識を持って合目的的に行動しますが、睡眠中は目的を持った行動は行わない。そして、音や光への反応も鈍くなります。これらの状態は脳波など生理学的情報によって判断できますが、その一方で、そうした状態から容易に回復できるのも睡眠の特徴。睡眠中も感覚系からの情報は処理されており、物音や揺れなどがあれば目は覚める。これが昏睡状態や他の動物の冬眠とは大きく異なる点です」

睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があるのはよく知られている通り。通常、眠りに就くとレム睡眠からすぐ浅いノンレム睡眠に入り、次第に深いノンレム睡眠になる。

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これが理想的な睡眠のカタチ。
健康な人の睡眠図。浅いノンレム睡眠に入り、深いノンレム睡眠を経てレム睡眠になった後、再びノンレム睡眠になる。このサイクルを一晩に4~5回繰り返して目覚める。

ノンレム睡眠はステージが4つあるが、これをトータル60~90分行った後、最初のレム睡眠に戻り、再びノンレム睡眠に入る。これを繰り返すうちにノンレム睡眠のステージは浅くなり、次第にレム睡眠の時間帯が長くなる。そして覚醒状態が訪れ起床となる。これが睡眠のサイクルだ。

レム睡眠は眠っているとはいえ脳が活発に動いており、自律神経機能の変動も大きくなり全身の代謝は高まっている。一方のノンレム睡眠は脳の活動が低下していて、自律神経も副交感神経優位に働いている。そして、全身の代謝は落ちている。こうして見ると、ノンレム睡眠はカラダも脳も休んでいる状態と言えるのだ。

2. なぜ眠るのか

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脳の働きや記憶、メンタル維持に欠かせないのだ

眠っている間に繰り返されるレム睡眠とノンレム睡眠。しかしカラダも脳もよりしっかり休んでいるのはノンレムの方なのだから、一度ノンレムに入ったらレムに戻る必要はない気もする。一体何のためにレムとノンレムは交互に訪れるのだろうか?

「レム睡眠の存在意義についてはさまざまな説があって、〝よくわからない〟というのが正直なところです。近年の研究ではノンレム睡眠が深くなると脳波の振り幅が大きくて周期の小さい波、すなわち徐波が現れ、どうやらこれが記憶の固定に重要な役割を果たしているのでは?といわれています。しかし、レム睡眠が記憶と無関係かというと、おそらくそれは違うのです」

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レムandノンレム睡眠のカラダと意識の状態。
レム睡眠は「浅い睡眠」と捉えられがちだが、実はこのとき脳は活発に動いており、脳波や眼球運動、行動などさまざまな点でノンレム睡眠とは異なることがわかる。

櫻井さんによれば、ある研究者がラットに学習をさせたところ、学習量が増えるほどレム睡眠が増え、レム睡眠を取り除くと学習成績が下がる結果になったという。

上に示した通り、ノンレム睡眠中に見る夢に比べてレム睡眠中の夢は複雑かつ奇妙なケースが多い。これはレム睡眠中に記憶の断片が再編成されることによる結果なのだが、こうしたレム睡眠における作業も記憶や学習に何らかの影響を及ぼしていると考えるのが自然である。

また、人間は1回の睡眠時間が7時間程度と、断片的に睡眠を取る他の多くの動物と比べて長いが、これはレムとノンレムを繰り返すから長時間睡眠を可能にしているという説もある。

人間は長時間眠らないと妄想や幻覚が顕著になる。つまり人間の精神機能はしっかり睡眠を取ることで正常に保たれるわけだが、レム睡眠は感情の整理を行っている可能性もあるのだとか。

つまり、睡眠はカラダと脳の休息はもちろん、記憶の強化や脳、精神機能維持に欠かせない活動なのである。

3. 眠りの質とは

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昼間に眠気があるかないか?で判定できる

よく「今日も6時間しか眠れなくて寝不足だよ」なんて会話を耳にする。巷では「人間は7時間半睡眠がベスト」とか、「3の倍数眠ればいいから本当にカラダにいいのは6時間か9時間睡眠」なんて噂があるが、実際のところはどうなのだろうか?

「まず第一に、必要な睡眠時間は個人差があります。短時間睡眠の代表格のようになっているナポレオンやエジソンも、実際はよく昼寝をしていたといわれており、毎日トータルで6時間程度は寝ていたそうです。その一方でアインシュタインは10時間以上眠っていたという説も。要するに、翌日眠気を感じることなくスッキリと過ごせるだけ眠ること。これがその人にとってのベストな睡眠時間なのです」

櫻井さんによると、健康体であるほど眠気の感じ方が睡眠状態のバロメーターとしての大きな役割を果たしてくれるという。

仮にあなたが世間でいわれているような7~9時間睡眠より短い6時間で毎日を送っていても、それで特に眠気を感じなければ、十分質のいい睡眠を取れていることになる。逆に、6時間睡眠の習慣を持つ人が無理に7~9時間眠っても、いまいち調子が上がらないことだってある。つまり、睡眠の質は睡眠時間の尺度では測れないのだ。

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睡眠時の脳波を状態別に比べてみると……?
覚醒時の振り幅が小さく速い波から、浅いノンレム睡眠→深いノンレム睡眠と移行するに従い脳波は大きく遅くなる。しかし浅いノンレム睡眠の状態が続くと良い睡眠ではない。

ついでに言うと、「睡眠のゴールデンタイム」にも根拠はない。これは午後10時から午前2時の間に眠るとカラダや肌にいい、という俗説だが、就寝の初期段階で深いノンレム睡眠に入れれば、その段階で成長ホルモンが多く分泌され、自然と筋肉や肌の修復が行われる。そうしたカラダの活動に時間帯は関係ないのである。

もうひとつ、睡眠負債という言葉をご存じだろうか。仕事や勉強などやるべきことが溜まっている状況では、多少睡眠時間を犠牲にしてでも何日も夜遅くまで机に向かえるはず。そしてやっと仕事や勉強が片付いたとき、次に取る睡眠は間違いなく普段よりも深く長いものになり、翌日は眠気を感じることなく過ごせるだろう。

これは脳内で覚醒が続いたことで増えた睡眠負債を清算している状態で、睡眠の恒常性とも呼ばれる。この点から考えても、必要な睡眠時間は状況によって変動する場合があり、総合的に見ると眠気を感じないだけ眠ればいいという説の十分な裏付けになるのである。

4. 眠りの量とは

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人間は、寝だめできない生き物なのだ

待ちに待った週末、今週は激務だったし思う存分寝だめしてやるぞ、と昼までスヤスヤ。しかしこれは寝だめではなく、前述した「睡眠負債の清算」にすぎない。

一方、「週明けから激務で確実に睡眠不足になるから、この土日は何もせずにひたすら寝るぞ!」とベッドにもぐり込んだとしても、その前日が寝不足でもない限りはそう眠れるわけじゃないし、それでその週を乗り切れるかというと、やっぱり眠いときは眠くなる。つまり人間の脳は睡眠負債を返済することは可能でも、あらかじめ睡眠を貯蓄しておくことはできないのだ。

「寝だめができないメカニズムは解明されていませんが、結局、人間には昼間太陽が出ているときに活動して夜眠る、というシンプルなシステムが適しており、毎日規則正しい時間に床に就き、同じ時間に起床することでしか快眠を得られないのです」(櫻井さん)

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食事後の軽い眠気ではなく、上のマンガのように過度な眠気を感じたり、頻繁に居眠りするようなことが続いたら過眠症の疑いあり。この場合、全身の倦怠感や集中力の低下も伴う。不眠と同様、眠り過ぎも怖いのだ。

なかには寝だめすることで脳をさらに発達させようと試みる人もいるかもしれないが、脳は基本的に年齢を重ねるほど成長する必要がなくなり、深い睡眠もいらなくなる。この点からも寝だめは意味がないことがわかる。

もし休日に寝過ぎなぐらい寝てしまった場合、起床後は運動でカラダを疲れさせたり、夜に強い光を浴びないといった工夫でなるべく早い時間に床に就けるような状態にもっていくといい。

もうひとつ。翌日普段より2時間早く起きなければいけないといった場合、目覚ましをかけたうえで2時間早く寝るケースがあるが、これも良い方法とは言えないのだとか。

「普段就寝する2~3時間前は脳の覚醒レベルが高く、普段24時就寝の人が眠気もないのに22時に寝るのは難しい。実は早起きを意識した時点で脳に短時間睡眠のイメージが出来上がるため、寝るのは普段通りでOKなのです。その場合、起床時間の前から副腎皮質刺激ホルモンが増えて起床に備えてくれます。早起きの時ほど起床時刻前に目覚められるのはこれが理由です」

5. 眠るテクニック

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夜、自然に眠くなるような過ごし方を!

毎日同じくらいの睡眠を取っているつもりでも、日によって目覚め方がまるで違うという経験をしたことはないだろうか。仕事に家庭に子育てにと、何かとバリバリやらなきゃいけない世代ほど、そうしたブレはなくしたいもの。毎日良い睡眠を取るためのアドバイスを聞いてみよう。

「就寝後、なるべく早い段階でノンレム睡眠のステージ3や4といった深い段階に入る。その後レム睡眠になり、再びノンレム睡眠が訪れるというサイクルが4回から5回見られる。この形が理想的な睡眠構築です。若い頃はノンレム睡眠の1回目や2回目で簡単にステージ3や4に到達できるんです。でも、年を取るとせいぜいステージ2までしか行けないことが多い。お年寄りの眠りは、若者に比べてずいぶん浅いというわけです。ですが、年齢を重ねても正しい睡眠衛生を身につけることで、質の良い眠りを取ることが可能なのです」

GOOD! 「眠るスキル」を上げる方法

  • 寝室は寝るための部屋と心得る。テレビを観たり、本を読んだりしない。
  • 眠くなってから寝室に行く。
  • ベッドに入って15分経っても眠くならなかったら、リビングに戻って眠くなるのを待つ。
  • ベッドの中で過ごすのは8時間まで。
  • 朝は決まった時間に起きる。
  • 夕飯の後、カフェインは摂らない。
  • 昼間に適度な運動をする。

櫻井さんが挙げてくれたのが上の7つのメソッド。昼間に適度に運動をすればカラダは適度に疲れるし、朝は毎日決まった時間に起きれば早めの時間に眠気が襲ってくるだろう。もちろん、遅い時間にカフェインを摂らない方がいいのは言うまでもない。若い頃のように毎夜バタンキュー状態になりにくい分、深い眠りに就けるよう起きているときからコントロールするのだ。

「あとは考え方もポイント。“何としても7、8時間寝なきゃ”“早く寝ないと”と眠りに対して意識が向きすぎると逆に眠れなくなってしまいます。きちんとカラダを疲れさせて、眠くなってから布団に入る。つまり睡眠を過度に意識しないようにして、悪影響を及ぼす行動はやめたうえで脳の機能に任せる。その結果、うまく眠ることができ、さらにその成功体験が積み重なれば、眠りのスキルはしっかり身についていくのです」

まずは眠りを妨げる要因をできる限り取り除くことから。これなら今日から始められる。

6. 眠気を払うテクニック

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昼寝は20分まで。それ以上は逆効果!

1つ目は手足冷却法。人間は眠くなると体温が高くなる。特に手足の血行が良くなりポカポカと温まると眠りに就きやすくなるため、冬場は足元に湯たんぽを置いたりすると入眠しやすい。

これを逆に考えてみると、手足を冷やしてあげれば眠気が覚めやすくなるというわけ。デスクワークをしている場合は靴を少しの時間脱いで足を冷やそう。それが難しければ手を水で冷やすのもいい。

GOOD! 眠気を覚ます方法

  • 20分のパワーナップ
  • コーヒーやお茶はホットで。
  • 手足を冷やす。

2つ目は近年その有効性が注目されている昼寝(パワーナップ)。櫻井さんは20分以内の昼寝を推奨している。

「昼すぎの時間帯は一時的に脳の覚醒シグナルが弱まり、また昼食を摂ることによって血糖値が上がるため眠くなりがち。そんなときは昼寝を取るといいのですが、あくまで短時間、できれば20分程度に留めておきましょう。理由は、それより長くなると深いノンレム睡眠のステージ3まで到達してしまう可能性が高いからです」

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ステージ3まで行かないように。
昼寝は20分以内で。20分なら浅いノンレム睡眠状態で起きられ、目覚めた後すぐ頭が元に戻ってくれる。1時間休憩なら40分で昼食、20分睡眠という具合に。

昼寝で深いノンレム睡眠を取れたら脳もカラダもしっかり休めることができる。何が問題なの?と思う方もいるかもしれないが、ステージ3まで行ってしまうといざ目覚めようと思っても頭がすぐには回らず、仕事などに影響が出てしまう。

うっかり1時間以上昼寝して、その後やたらと頭がボーッとするのはよくあるパターンだが、その点、20分、長くても30分以内なら浅いノンレム睡眠止まりなのでシャキッと起きられるのだ。

昼寝の前には、コーヒーやお茶を飲んでおこう。ちょうど昼寝から目覚める頃にカフェインが効いてきてより良い目覚めが迎えられるし、ホットで飲むと、アイスに比べてカラダへの吸収がかなり早まるのだ。昼寝する、しないにかかわらず眠気覚ましのコーヒーやお茶はホットで摂るべし。

取材・文/黒田 創 イラストレーション/沼田光太郎 取材協力・資料提供/櫻井 武(筑波大学教授)

(初出『Tarzan』No.730・2017年11月9日発売)

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