釜石市鵜住居にラグビーW杯がやってくる! この町にまた新しいラグビーの記憶が刻まれる
全国12の開催都市・スタジアムにはそれぞれの物語がある。それでも、釜石のスタジアムでの試合はきっと特別なものになる。
取材・文/山口淳 撮影/石井文仁
(初出『Tarzan』No.771・2019年8月29日発売)
「ここで試合をすべき」と強く感じた。
「一番小さいけれど、一番想いが込められたスタジアム」
7月27日、フィジー戦の前に訪れた釜石市民ホールのファンゾーンで耳にした言葉だ。今回のワールドカップは12都市のスタジアムで開催されるが、やはり釜石鵜住居復興スタジアムは特別だろう。
ワールドカップ開催12都市の中で釜石市の人口は最も少なく3万3,317人(2019年6月現在)。スタジアムの収容人数は1万6,000人だ。1978〜84年にかけて新日鉄釜石が果たした日本選手権7連覇を記憶した町は、19年大会の開催地として手を挙げた。
スタジアムが建てられたのは、震災の津波で被害を受けた鵜住居小学校と釜石東中学校の跡地。海と森に囲まれたスタジアムはどこか静謐で、選手や観客の沸き立つエネルギーを包み込む慈愛すら感じる。
建設途中で視察に訪れたワールドラグビーの関係者も「ここで試合をすべき」と開催の意義を強く感じたという。そして、今大会で唯一の新設スタジアムでの試合開催は決まった。
オープニングは昨年の8月19日。記念試合の前に“キックオフ宣言”をしたのは釜石高校2年生(当時)の洞口留伊さん。洞口さんは被災した8年前は鵜住居小3年生。地元の中学生を対象にした15年ワールドカップへの派遣に応募して、現地で試合を観戦した。ファン同士が敵味方なく握手する姿に感銘を受けたという。
ワールドカップで行われる試合を通して「全国や世界へ、釜石からの感謝の想いを伝えたい」と澄んだ目で語る。
フィジー戦前日にはワールドカップの優勝トロフィー“ウェブ・エリス・カップ”が釜石東中学校を巡回して、試合当日の両国国歌は同校の生徒たちが斉唱した。日本代表が苦手のフィジーを翻弄したうえでの快勝という結果とともに、この町にまた新しいラグビーの記憶が刻まれ、受け継がれていく。
そして、いよいよ釜石にワールドカップがやってくる。9月25日、フィジーvsウルグアイ。10月13日、ナミビアvsカナダ。 “羽ばたき” “船出”がデザインイメージの釜石鵜住居復興スタジアムで、どんな物語が紡がれるだろうか。