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まだまだ暑い夏。快眠のために知っておくべき8つの基本

まだまだ暑い夏にぐっすり眠るにはテクニックがいる。光、深部体温、室温、湿度、寝具、ブルーライト対策、ストレッチ…。あの手この手で自分をきちんと寝かせよう。まずは、8つのトピックスで夏の眠りの基本をおさらいしよう。

1. 「深い眠り」がハンサムボディを作る。

夏は高温多湿で眠りのリズムが崩れやすい季節。眠りを整えるために、その大切さとメカニズムを改めて学びたい。

眠りでは「何時間眠ったか」という“量”ばかりが注目されがちだが、それ以上に大事なのは「どれくらい深く眠れたか」という“質”である。

眠りにはノンレム睡眠とレム睡眠があり、90〜120分サイクルで交互に繰り返す。両者は対照的。ノンレムは深い眠りで脳が休み、レムは浅い眠りで脳は情報整理に励む。

良い睡眠のパターン
良い睡眠のパターン
良い睡眠のパターン。寝始めはいちばん眠りが深く、ノンレム睡眠の深睡眠が多い。それから徐々に浅くなり、レム睡眠が増えて目覚めに備える。
出典/『眠トレ!』(三橋美穂著、三笠書房)より一部改変

寝入ると初めにノンレム睡眠が訪れる。これにはステージ1〜3の3段階があり(以前は4段階だったが、現在は3段階)、ステージ3が深い眠りの「深睡眠」。とくに入眠直後に訪れる深睡眠で、成長ホルモンが分泌される。成長ホルモンは筋肉をはじめとする組織と細胞の修復を助け、美肌&美ボディ作りを援護する。

「入眠4時間以内に深睡眠を2回以上取ると脳もカラダも疲れにくく、日中アクティブに活動できます」(睡眠専門医の白濱龍太郎医師)

夏は寝付きにくいが、それだと眠りが浅くなり、深睡眠が取りにくい。

「まずは寝付きを良くするのが先決。寝床に入り、20分以内に眠ることを目標にしてみてください」(快眠セラピストの三橋美穂さん)

2. 眠りのリズムは「朝の光」で作る。

今も昔もヒトは、日が昇ると活動し、日が落ちると休息する昼行性動物。このため光(太陽光)で行動をスケジューリングする仕組みを体内に持っている。そこで主役となるのはメラトニンというホルモンだ。

「メラトニンリズムは、私たちの生活パターンを決める重要なリズムです」(作業療法士の菅原洋平さん)

メラトニンは、目の網膜で光を感知すると減り、暗くなって光が減ると分泌が増える。つまり明るくなったら動き回り、暗くなったら眠って休むというヒトの生活パターンを作る働きを担っている。

メラトニンは朝の光を受けて起床すると4時間後まで分泌が減り、朝日を浴びて14〜16時間後に濃度が急激に上昇する。入眠から3時間後にもっとも多く分泌されて眠りの中盤を充実させる。

もともとメラトニンは、30億年前に光合成を始めた藻類が作り出したのが最初。元来は日中降り注ぐ強烈な紫外線による酸化の害から細胞を守るための抗酸化物質である。体内でもメラトニンは抗酸化作用を発揮しており、日中に生じた有害な酸化物質を無力化するカラダのメンテナンスを行っている。これも眠りが疲労回復に欠かせない理由の一つだ。

3. 夜が短い夏は眠りも短い。

メラトニンを操って一日のタイムマネジメントを担う中枢は、脳の体内時計。その周期は24時間より10分ほど長く、毎朝朝日を浴びてズレを修正する。

こんな面倒な仕組みなのは、地球の公転による四季で、日の出の時刻と昼夜の長さが違うから。東京の夏至の日の出は朝4時半、冬至は7時。昼が最長の夏至の日照時間は約15時間で、最短の冬至は10時間である。この変化に対応するため、日々体内時計のネジを巻くのだ。

日の出が早く夜が短い夏には夏の眠りがある。基本戦略は2つだ。

1つ目は日の出とともに朝早く起きて太陽を浴び、体内時計をリセット。早めに起きるとメラトニンリズムで夜早く眠くなるので、夜更かししなければ睡眠時間は十分取れる。

2つ目は遮光カーテンでむしろ光を遮断し、出社時刻から逆算した時刻に起床。起きたらカーテンを開けて光を浴び、体内時計をリセット。夜更かしでも睡眠時間は確保できる。

前者は朝元気な朝型、後者は夜元気な夜型に向いている。朝型と夜型の傾向はクロノタイプと呼ばれており、遺伝子である程度決まっている。メラトニンの作用が朝型は早く、夜型は遅いのだ。

「両方試してみて調子がいい方を選びましょう」(菅原さん)

4. 夏は「深部体温」が下がりにくい。

眠りのサイクルを決めるのはメラトニンだけではない。メラトニンは光という外的な要素に左右されるが、内的な要素でも眠りはコントロールされる。

起き続けていると脳内で睡眠物質が少しずつ溜まり、一定以上蓄積すると眠気が高まる。これは起きていた分だけ眠るという内的な要因の一つ。もう一つの要因は、内臓などカラダ深層の深部体温の変化による。

ヒトを含めた動物は深部体温が高いほど元気で、低くなると眠くなる。日中活発に動いてエネルギーを使うと深部体温は上がり、より元気になるという覚醒のサイクルが生じる。

眠る前は脳の指令で手足などの血管を開いて放熱を促し、深部体温を下げる。それによって眠くなり、寝たらエネルギーはあまり使わないから、深部体温は下がったまま。朝になると気温が上がるし、コルチゾールというホルモンの働きで深部体温が上昇に転じて覚醒に備える。

「外気温が高すぎる夏場は深部体温を下げにくい。だからこそそれを下げる工夫が必要です」(菅原さん)

その最右翼が入浴。浴槽入浴で体温を上げると、血管が開いて放熱が盛んになって深部体温が下がるため、すっと寝入りやすくなるのだ。

5. 夏は「副交感神経が優位」でメリハリが作りにくい。

子供の頃、運動会や遠足の日の夜はぐっすり眠れた経験はないだろうか。そこからわかるように日中の活動量と眠りのニーズは比例。長時間活発に動くと睡眠物質も疲労も溜まり、その回復のために眠りの欲求度が高まる。

日本の夏はアクティブになるには暑すぎるから、運動量は少なくなる。これも、夏に快眠が難しい理由のひとつ。その背景には、交感神経と副交感神経からなる自律神経がある。

「副交感神経にはそもそも消化吸収を促す作用があるのですが、高温多湿で過酷な夏を乗り切るために、エネルギーと栄養素をできるだけ効率的に取り込もうと、夏には副交感神経の活動が高まります」(菅原さん)

また、副交感神経には血管を開いて放熱を促す働きもある。気を抜くと夏はダラダラしがちなのは、副交感神経がオンだからだ。副交感神経は休息モードへ誘う働きがあるため、アクティブになりにくい。

その結果、日中の運動量が落ち、夜の睡眠が取りにくくなる。夏こそ意識してカラダを動かし、副交感神経から交感神経へスイッチ。運動量を増やして眠りのニーズを高めよう。

炎天下で運動する気になれないし、熱中症も危険。日が落ちた帰宅時にひと駅分歩くか、快適なジムで週2〜3回定期的にトレーニングしよう。

6. 「いびき」をかいたら危険な眠りと思うべし。

たっぷり寝ているのにぐっすり寝た感じがしない、午前中から耐えがたい眠気がある…。そんな自覚があるなら、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を疑った方がいい。1時間に5回以上、10秒以上呼吸が止まったか弱まると、SASと診断される。日本人の推定有病率はおよそ10%だ。

SASのわかりやすいサインは、いびき。仰向けに寝ると舌などが垂れ下がって気道が狭くなり、そこを空気が通ると空気抵抗が増えていびきが生じる。

気道が狭いと呼吸が不十分になり、気道が完全に閉じると呼吸はストップ。呼吸をコントロールする脳は眠れないので、本人は寝ているつもりなのに完徹状態。疲れは取れないし、睡眠不足が積み重なって巨額の睡眠負債を背負わされる。

「SASだと交通事故を起こす確率は2.5倍、突然死のリスクは3倍になります。SASの基準を満たさなくても、いびきを週3回以上かく人は心筋梗塞のリスクが高まることもわかっています」(白濱先生)

太っていると気道は狭くなりやすいが、日本人をはじめとするアジア人は小顎で骨格上痩せていても気道が狭くなりやすいから注意。SASを疑ったら、日本睡眠学会認定の専門医や医療機関を早めに受診したい。

7. 寝床内環境を左右するのは「6つの要素」。

眠りに環境が与える影響は大きい。とくにダイレクトに関わるのは、ベッドや布団に入ったときの寝床内の環境。

「“気持ちいいな”と感じるのは、温度33±1度、湿度50±5%だとわかっています。これが夏のみならず、四季を通して快適に感じられるコンディションです」(三橋さん)

三橋さんによると寝床内の環境を決める要素は全部で6つある。(1)温度、(2)湿度、(3)気流という純粋な環境ファクターに加えて、(4)寝具量、(5)着衣量、(6)体質といった眠る人間側のファクターも加わるのだ。

温度33±1度、湿度50±5%にするために、夏はエアコンで室温を28度以下、湿度は40〜60%をキープ。気流はウチワで扇ぐくらいの秒速0.5m以下がいい。同じ温度と湿度でも微風があると涼しく感じるもの。とくに夏は気流のインパクトは大きい。エアコンやサーキュレーターを快適な風向きに調整したい。

夏の寝具は熱がこもらず、冷感があって通気性の良いものをチョイス。パジャマも寝返りを妨げないようにカラダを締め付けず、通気性と吸汗速乾性に優れたものを選ぶ。同じ条件下でも体感は人によって異なる。暑がりか寒がりかという体質に応じて寝具と着衣の量を増減させよう。

8. 眠りは夏の「ダイエット」にも関わる。

夏バテで痩せるはずなのに、夏に太る人もいる。暑すぎて食欲が多少落ちても、それ以上に暑さと副交感神経に負けてカラダを動かさなくなるからだ。

睡眠不足だと最悪。盛夏でも食欲が増して一層太りやすくなる。

その背後で糸を引いているのは、食欲に関わるホルモンだ。食欲を促すのは、胃から分泌されるグレリンというホルモン。食欲を抑えるのは、脂肪細胞から分泌されるレプチンというホルモンだ。

これらのホルモンは睡眠時間と相関し、睡眠時間が短いと食欲を促すグレリンが増えて、食欲を抑えるレプチンが減る。ゆえに夏に眠れないと太りやすいのだ。

睡眠時間と肥満度の関係
睡眠時間と肥満度の関係
BMIで推定される肥満度と、平均睡眠時間には相関関係があり、睡眠時間が短くても長くても肥満度が上がるV字を描く。
Taheri S, et al. PLoS Med. 2004

逆に寝すぎでも日中の消費カロリーが減って太りやすい。いちばん痩せやすいのは、睡眠不足でも寝すぎでもない7.5時間前後だ。

眠るときの環境も肥満と関わる。真っ暗で寝た方が痩せやすいのだ。

「奈良県立医科大学の研究では、豆電球程度(3ルクス以上。中央値は8.7ルクス)の明るさで眠る人は、ほぼ真っ暗(3ルクス未満)で眠る人より、肥満の割合が1.9倍高かったそうです」(三橋さん)

光の刺激で知らない間に眠りが浅くなり、メラトニンが減って代謝リズムが乱れるからだろう。

教えてくれた人

白濱龍太郎(しらはま・りゅうたろう)/睡眠専門医。睡眠、呼吸器内科、在宅医療の専門クリニック〈RESM新横浜〉院長。筑波大学医学群医学類卒業。医学博士。著書に『誰でも簡単にぐっすり眠れるようになる方法』(アスコム)など。

三橋美穂(みはし・みほ)/快眠セラピスト、睡眠環境プランナー。寝具メーカーの研究開発部長を経て独立。これまで1万人以上の眠りの悩みを解決。寝具や快眠グッズのプロデュースも行う。著書に『眠トレ!』(三笠書房)など。

菅原洋平(すがわら・ようへい)/作業療法士、ユークロニア代表。国際医療福祉大学卒業。睡眠に着目した臨床、生体リズムや脳科学を踏まえた人材開発を行う。著書に『誰でもできる!「睡眠の法則」超活用法』(自由国民社)など。

取材・文/井上健二 撮影/山城健朗 スタイリスト/高島聖子 ヘア&メイク/天野誠吾 取材協力/白濱龍太郎(RESM新横浜院長、医学博士)、三橋美穂(快眠セラピスト)、菅原洋平(作業療法士)

(初出『Tarzan』No.770・2019年8月8日発売)

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